アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 803

問題の時計を発見した小川松五郎老人。

【公判調書2483丁〜】

                     「第四十八回公判調書(供述)」

証人=石原安儀(五十七歳・警察官)

                                           *

宇津弁護人=「先ほど聞込みは二十軒くらいは優にやっておるという証言でしたが、それはあなた一人だけでそれくらいやっているという趣旨ですか」

証人=「いや、相棒がいたんです」

宇津弁護人=「あなたと相棒と二人でやったというのが優に二十軒くらいだと、こういうわけですね」

証人=「そうです」

                                            *

裁判長=「まあ自分の組んだ人との組ということだね、三分の一だね」

証人=「そうです」

                                            *

宇津弁護人=「あとの二組の人達もそれぞれ何軒くらい聞込みをやったかはどうですか」

証人=「これは分からないです。何人やったか」

宇津弁護人=「聞込みに入る前に、聞込みをすべき大体の範囲を決めて、この範囲内をずっとやろうじゃないかということであったわけですか」

証人=「そうです」

宇津弁護人=「じゃあらかじめどこの家があり、その家が何という家かの、大体の見取図ないしは略図みたいなのをお持ちになって」

証人=「いや、そうじゃないです、道路を基準にしてやってしまうんですよ」

宇津弁護人=「そうすると、お前は道路のそっち側どのくらいの範囲を聞込みしろと、こういうわけですか。俺はこっち側をやると」

証人=「ええ、そういうわけです」

宇津弁護人=「で、一軒残らずやろうというわけでしょう。大体T字路を中心にすれば大体その周辺漏れなくということだった、そうですね、先ほどの」

証人=「ええ、そうです。ただそれが不在の家もありますからね、問題は」

宇津弁護人=「そこは出直してまた行くということですか」

証人=「まあ、大体行くというようにしているんですけれども、どうかするとやはり落ちもあるんです。今までの地取り捜査なんて、往々にしてそういうことがありますから、本当は家族全部に聞かなくちゃ満点にはいかないんですけれども、とてもじゃないけど中々出来ない」

宇津弁護人=「一つでも欠けたら意味がないということを言っても過言じゃないんでしょう、聞込みというのは」

証人=「そうですよ、だからもう一軒行けば聞けた情報が、あそこを落としたために失敗したという例もありますから」

宇津弁護人=「本件の場合には特にそういう思い残しがあるんですか。本件の場合はそういう気持ちはないんですか」

証人=「ありません」

宇津弁護人=「聞込みはどういうことを尋ねながら歩いたんですか」

証人=「それは要するに拾った物があるかどうかということが主なんです」

宇津弁護人=「何でそんな事をお聞きになるんですかというような質問も受けたでしょうね」

証人=「いや、受けないです」

宇津弁護人=「いずれの段階でもいいんですが、時計の捜索隊でなくても、上司の方も何らかのご意向で現場に来られたことがありますか」

証人=「それはどういう捜査過程ですか」

宇津弁護人=「時計が出たとされているのが七月二日のようですけれども、まあ、その以前の段階、つまりあなたがこの事件で関与されておった時期ですが、時計が後に出たとされる所にあなた方の上司が何らかの用件で見えたことはないですか」

証人=「ありません」

宇津弁護人=「そうあなたは言える」

証人=「ええ、ないと思いますよ。確か今までがそうだからあの時もどんな状況かて来たような記憶がないですね」

宇津弁護人=「それじゃあなたは小川さんの家でお茶をご馳走になったことがあるんじゃないの」

証人=「ないです」

宇津弁護人=「いろいろよもやま話を相当長い間小川老人のお宅でしているんでしょう」

証人=「とんでもないです。しないです」

宇津弁護人=「T字路に立ってお茶畑に向かって少し右手、つまり東側に行きますとすぐ左にだんだらと下がる道があって農家が数軒ありますね、機屋さんを含めて」

証人=「はい」

宇津弁護人=「そのだんだら道を下がっていく途中に小川老人の家があるわけですがね、そこだけ聞込みから外したというのはどういうわけなんですか」

証人=「まあ故意に外したわけじゃない、私の考えではミスじゃないかと思うんですけれどもね」

宇津弁護人=「実際はそこに行っていろんなお話しをしてお茶の接待を受けたりなんかしているんではないですか」

証人=「いや、とんでもない、小川さんの家じゃご馳走になっていませんね」

宇津弁護人=「よその家じゃしていますか」

証人=「よその家じゃ、どうかすれば話が持てればどうぞお茶をということですね。それはお茶もご馳走になった家があるでしょうけれども、しかしどこの家でお茶をご馳走になったという記憶はないです」

宇津弁護人=「小川老人宅を除いて全部、我々が検察官手持ちのものを見た範囲内では聞込みをされているようなんだけれども、どうも小川老人宅を除いておるというのはわからんが、これはミスでしたねというのでは収まりがつかないように思うんだけれども」

証人=「仕方ないです」

宇津弁護人=「それについて小川老人だけを聞込みしなかったのはいかんじゃないかというような注意を受けたことはないの」

証人=「ありません」

(続く)