写真は"無実の獄25年・狭山事件写真集=部落解放同盟中央本部中央狭山闘争本部・編、解放出版社"より引用。
【公判調書2729丁〜】
「第五十二回公判調書(供述)」
証人=青木一夫(五十六歳・川越市役所臨時嘱託)
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中田弁護人=「はい、調書には麻縄というような表現もあるし、木綿の紐というようなものも記録に出てるんですがね、ともかく荒縄とは違ったもので、紐の類いが首に巻きつけられていたんじゃないですか」
証人=「何かあったと思います」
中田弁護人=「足首にも同じような紐が括(くく)ってあったんじゃないですか」
証人=「身体の部分に巻きついていたものは、タオルと手拭いと、荒縄と、何か細い紐だったでしょうか」
中田弁護人=「うん、細い紐」
証人=「柵に結び付いていた記憶がありますがね」
中田弁護人=「今までの記録によれば、その細い紐で足首を括って、その先に荒縄が付いていたということになってるんですが、思い出しますね」
証人=「はい」
中田弁護人=「そこで、先ほど、何か柵に使っていた縄が無くなっていたということを被告人の自白以前に知っていたと言いましたね」
証人=「はい」
中田弁護人=「今言った、その細い紐がどこから出てきたのかについて、あなたとしてはどういう風に考えていたんですか。被告人を調べる前に、としておきましょう」
証人=「・・・・・・・・・・・・」
中田弁護人=「逆に質問していきましょう。細い紐をどこから持って来たか、石川君が言ったか覚えてますか」
証人=「あれは確か、山の端に家が何軒かありまして、その家のそばの、いや、家の敷地の所に張ってあった縄という風に記憶するんですが」
中田弁護人=「すると、さっき言った柵に使われていた縄とほぼ同じ場所から紐を持って来たという供述ですか」
証人=「その場所に細い紐が付いていたんでしょうかね、そこのところの記憶が・・・・・・・・・。あそこの柵は、荒縄ですよ、その荒縄に付いていたんでしょうか、ちょっとそれ細い紐がそれと一緒だったかどうか記憶ありませんが」
中田弁護人=「石川君がその細い紐をどこから持って来たかということをどう説明したかも今覚えていないわけですか」
証人=「はい」
中田弁護人=「自白ではその柵にあった荒縄と、その家の近くにあったその細い紐を持って来たということに約(つづ)めて(注:1)言えばなってるんですけどね」
証人=「家の近くですか」
中田弁護人=「ええ」
証人=「・・・・・・・・・・・・」
中田弁護人=「そうなってるんですが、その柵が、無くなったという家の人もそういう紐は、自分の家には無かったと、法廷で証言してるんですよ。あなた方取調官の中で、あなたの言う細い紐が一体どこから出たものかについて、議論になったことはありませんか」
証人=「ありましたね、何か、細い紐が、あれは違うかな、何か、山の・・・・・・・・・。私、やはり見なかったんですけれども、紐というのは、自転車のかけ紐だったかな、ちょっとよく思い出せませんですが」
(以上 佐藤治子)
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(注:1)約(つづ)めて=要約すれば、の意。
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山上弁護人=「疑問がちょっとあるので確かめたいんですが、あなたが石川君を調べ出した時点では、本件の事件は複数ではないかという想定もあってお取調べになりましたか、あるいはその時はすでに、たとえば六月二十三日の時点に限りましょう、おたくの調書では二十三日頃に全面的に単独の自供をなさったということになっておりますが、その時点で複数ではないかというような問題点はあったのですか、どうですか」
証人=「よく分かりませんでしたので、複数とも単数とも想定は出来ない状態だったと思います」
山上弁護人=「六月二十三日に全面的に単独自供があるのですが、その時点ではどうでしたか」
証人=「その時点でも、そうした断定は下せない状態だったと思います」
山上弁護人=「あなた自体としては断定し難いというのは、共犯もおるのではないかという風な想定で取調べられたということになりますか」
証人=「共犯があるのか、ないのか分からないという状態だったと思います」
山上弁護人=「共犯に手伝ってもらったとか、あるいは他に相手がおったのではないかというような尋問はなさっておりますか。単独か複数か分からないというようなお考えもあったという風に聞こえますが、特定の行動についてですね、この行動は一人でやったのか二人でやったのかというようなことも逐次尋問されておったのかどうかですが」
証人=「あの時点では、とにかく、三人ということで説明を聞いておりましたですがね」
山上弁護人=「説明を聞いておった」
証人=「はい」
山上弁護人=「聞いておったというのは、あなたが尋ねたというんですか」
証人=「いや、話しておったことをまとめておったわけですね」
(続く)