アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 713

(写真は"無実の獄25年・狭山事件写真集=部落解放同盟中央本部中央狭山闘争本部・編、解放出版社"より引用)

【公判調書2246丁〜】

                  「第四十四回公判調書(供述)」

証人=大野喜平(六十歳・会社員)

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山上弁護人=「それから、もう一点。中田健治さんがね、立会ったと言いましたが、現場にいらしたようですね」

証人=「おりましたけれども、終始そこに居たんでなく、ある一定のところに居て頂いたことは事実です」

山上弁護人=「あなたがビニール風呂敷などをお示しになったことがあるんですか、これは善枝さんのものかどうかという。先ほどのあれでは、そういうことがあったような」

証人=「それはですね、補助者もいるわけですからね、それは私が直接やったか、補助者もいますから、そこは立合わしていたということは事実で、その現場に終始居たわけではないですから、来ておりましたから、おそらく、それは聞いたということは事実だと思うんです。さもないと、その記録ちょっと書けませんから、そういうことは考えられるんです」

山上弁護人=「特にですね、側におられたかも知れない健治さんの表情とかですね、どういう感じに受け取るということは注意されたことはありますか。割合、冷静であったというかね、取り乱しておったかということですね」

証人=「取り乱していたか、平静だったかということですか」

山上弁護人=「そこら辺のところで、何も特に印象が残っていなければ残っていないで結構です」

証人=「残っていないですね」

山上弁護人=「この死体発見のときに、肉親で側におられたのは健治さんだけですか、あなたの記憶では」

証人=「穴の付近でしょう。第二回目のときには自宅へ持って行きましたから、穴の付近でしょう。おそらく兄さんじゃないかと思いますが」

山上弁護人=「それから、メリヤスのズロースに土が付いていたという記載があるんですが、特にぴたっと付いていたとか、記憶ありますか」

証人=「ペチコートとかいう、それが多少たくし上げてありましたから、多少泥があったと思うんです」

山上弁護人=「多少泥が付いておったぐらいですか」

証人=「と思うんです。ペチコートにもかなり泥が付いてましたから」

山上弁護人=「ズロースに多少泥が付いていたように思うと、その程度ですね」

証人=「ええ、付いてました」

山上弁護人=「それはべとっというような感じじゃないんですね。先ほど上着には、べとっとというような引きずったような、ということを仰いましたが、それと比べて仰って頂きたいんですが、特に印象に残ったような泥の付き方ではなかったという趣旨ですか」

証人=「それでいいと思いますが」

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石田弁護人=「あなた、先ほど最初の聞込み捜査の段階で、奥富タカシさんという子供から聞込みをしたということを言われましたですね」

証人=「あったと思います」

石田弁護人=「奥富タカシさんは被害者の中田善枝さんとどこで会ったという風にあなたに述べていたですか」

証人=「それに関連した記録はあると思うんですがね」

石田弁護人=「じゃ、記憶喚起の意味で尋ねますが、関口自転車というところの付近で会ったという風に言っておったんじゃないですか」

証人=「それがコースを申し上げますと、場所はよく記憶ありませんが、農協の方でない、大通りでない方の裏道の通りになります」

石田弁護人=「要するに、田中の方から堀兼の方へ通じておる道の、西武新宿線の線路を堀兼の方にちょっと渡ってきたその関口という自転車屋さんの付近だということですね」

証人=「そんな風に記憶してますね。コースは向こうの農協へ来る方の大通りじゃないんです」

石田弁護人=「その奥富タカシという少年は中学の三年生で、中田善枝さんの中学生時代、一学年下の生徒だったということもその際確かめられておりますね」

証人=「何か信憑性があまりないんじゃないかということで、それで記憶が薄らいでいるんですが、記録には確かあると思うんですがね、深い記憶が薄らいでおります」

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中田弁護人=「着衣やタオルや手拭いの濡れ具合について、先ほどから仰っているんですがね、ちょっとしつこいですが、もう一ぺんだけ伺います。あなたの実況見分調書の中には特に荒縄については甚だしく濡れていたと書いてあってね、着衣、その他タオルにせよ手拭いにせよ、濡れ具合は何も書いてない。それから頭の髪ですがね、頭髪は散乱し、という部分があるんです。そういう表現などから見ると、縄と違って濡れてはいなかったんじゃないかという風に見られるんですが、先ほどからの証言、かなり濡れていたかの如く仰った証言には誤りはないんでしょうか」

証人=「濡れていると散乱しないんでしょうか」

中田弁護人=「部分もあったんでしょう」

証人=「だから、濡れていると散乱しないんでしょうか」

中田弁護人=「髪はしっとりとする感じになるのが普通ではないですか」

証人=「濡れていても散乱すると思うんですがね」

中田弁護人=「そうすると、答えは先ほどの証言通りということですか」

証人=「やむを得ません。荒縄というのは特に濡れていた、それに比べて特に濡れていたという感じは今でも持っております」

中田弁護人=「あなたはそれから後、中田さんの家へ行ったわけでしょう」

証人=「ええ、行ってます。その記憶がはっきりしないんですね。その前にも行ったかも知れませんね」 

中田弁護人=「この実況見分が終わってから中田さんの家へ行ったわけでしょう」

証人=「ええ、行きました」

中田弁護人=「そこで、その日解剖が行なわれたことを知っていますか」

証人=「行なわれましたですね」

中田弁護人=「死体が着ていた着衣の類を取ったのは誰か知ってますか」

証人=「とったというのはカメラですか」

中田弁護人=「そうじゃなくて、取り外したという意味です。死体を裸にしたのは誰か知っていますか、解剖の前に」

証人=「はっきり記憶がありません」

中田弁護人=「あなた解剖に立会いましたか。立会ったというとオーバーかな、解剖するところ見てましたか」

証人=「終始見ません」

中田弁護人=「解剖始まったのは少なくとも知ってますね」

証人=「少しは知ってますが、行って、死体の状況を記録しなければなりませんから、その延長としてはそこには立会いました。自分で多少やりました」

中田弁護人=「あなたは擦過傷がここにあったとか、鼻血が出ていたということを書いておられるから、今、ちょっと伺ったんだけれどもね、着衣を取り外して死体を裸にする状況は見てますか」

証人=「見てます」

中田弁護人=「誰がね、それを取り外したかは記憶ないですか」

証人=「私はやりません、これははっきり言えません」

中田弁護人=「死体を水で後に洗ったようなんですけれども、それは誰がやったか知りませんか」

証人=「終始いなかったと思います。相当長時間に亘っていますから」

中田弁護人=「最後に一点、この事件当時、あなたは狭山警察署の防犯係長でしたね」

証人=「はい」

中田弁護人=「防犯係長は銃砲の類の所持許可を取る手続きを扱っていますね」

証人=「扱っています」

中田弁護人=「狭山署管内で当時、銃砲の所持許可を取っていたのは何人くら居いたか憶えてますか」

証人=「記憶ありませんですね」

中田弁護人=「猟銃などの許可もやっておるでしょう」

証人=「やってます」

中田弁護人=「何百人、何千人という数じゃないでしょう、狭山署の中で」

証人=「そうですね、その数を的確に掴んでも、今になってそれが何人居たかということはちょっと申し上げにくいんですが」

中田弁護人=「大雑把でいいんですが、たとえば十人くらいとかですね」

証人=「そんなものじゃないです。一斉検査をしたこともありますし、概数ですよ。一斉検査をしたとき、三、四百人くらい検査を受けたように思うんですが、道場でやりましたから。正確な数字ではありません」

中田弁護人=「猟銃の許可をもらっていた人の中に、長島少時という人がいたかどうか憶えていますか」

証人=「記憶ありません」

中田弁護人=「あなたはこの事件で問題になっている脅迫状の封筒の表に少時様という字が書かれていたことを知っていますか」

証人=「ショウというのはどういう字ですか」

中田弁護人=「少年の少に、時間の時です」

証人=「何か、私の記憶ですよ、何か加除して、訂正したような記憶がありますが、名前までは記憶ございません。直してあるというのは記憶ありますが、どういう風に直したかということは記憶ないんです」

中田弁護人=「それはいいんですが、私が伺っているのは少年の少に時代の時と書いた名前が書いてあるということは記憶ありますか」

証人=「今は記憶ありません、直したことは記憶あるんです」

中田弁護人=「さっき言った長島少時という人の少時というのは、まさに少ない時と書いてあるんですけれどもね、そういう人が狭山署管内で猟銃許可を取っていたかどうか記憶が本当にありませんか」

証人=「ありません」

中田弁護人=「ありませんか」

証人=「ありません」

中田弁護人=「最近、そういう人が問題になっておることを誰かから聞いたことありませんか」

証人=「ちょっと遠方に通勤しておるもんですから、情報、そういうものを伺いません」

中田弁護人=「あなた自身は少時という人に関する捜査をしたことがありますか」

証人=「ありません。これははっきり言えます。ありません」

中田弁護人=「それははっきりしている」

証人=「はっきりしてます。ありません」

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(続く)