アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 835

(石田養豚場。写真は狭山事件資料より)

【公判調書2580丁〜】

                     「第五十回公判調書(供述)」

証人=岸田政二(五十七歳・自動車教習所管理者)

                                           *

山上弁護人=「それから、石田豚屋の関係を、いろいろ出入りしている人の唾液、筆跡等を調べたというような前回証言がございましたね」

証人=「はい」

山上弁護人=「この中で、石田登利造さんという人がおったことは記憶にありますか」

証人=「名前は記憶しております」

山上弁護人=「この方は自殺なさったようなことは知ってますか。これ起訴された後ですからあるいは関心がなかったかも知れませんが」

証人=「いや、初めて聞きました」

山上弁護人=「初めてですか。そういうことが何か話題になったことはありませんか。石田豚屋に出入りしている石田登利造について、実は自殺をしたというような噂が警察の中に起こりませんでしたか」

証人=「聞かなかったです」

山上弁護人=「そうすると勿論、石田登利造さんがどの時点で自殺したかということもご記憶ないんですね」

証人=「はい」

山上弁護人=「これは石川君が東京の高裁に移って、自分はやっていないと言った直後頃に自殺をしているという事実、これは客観的な事実ですから、その石田登利造さんについて生前、特に調べたというご記憶はありますか」

証人=「血液型の検査はやったような気がします」

山上弁護人=「筆跡は」

証人=「筆跡もあるいはやっているかも知れません、はっきり断定はしかねますが」

山上弁護人=「この方が、石田豚屋にいらっしゃる前にどういう職業をしているかどうか、というようなことは調べましたか」

証人=「調べてありますが、今ちょっと思い出せません」

山上弁護人=「これはまあ事実として申上げるんですが、石田登利造さんが野犬狩りなどしておったということは知ってますか、噂で」

証人=「ちょっと今の時点では記憶にありません。あるいはそういうことを聞いたかも知れませんが、現時点では覚えてないです」

山上弁護人=「この登利造さんが事件のだいぶ前ですが、野犬狩りのひこつくし様のひもを持って、よく歩いていたようだということはあなた方の捜査から上がっておりませんか、上がっておるんじゃないんですか」

証人=「さあ上がっているかも知れませんが、今覚えておりません」

山上弁護人=「こういう場面ですから正確に一つ、はっきりと申していただきたいんですが、そういうような情報が入っておったような気もしますか」

証人=「さあ、今覚えてません」

山上弁護人=「石田登利造さんの当時の職業はどういうことのようにご記憶されてますか」

証人=「登利造さんという名前は記憶あるんですが、どういう仕事をしたかまでは記憶にないですね、覚えてません」

山上弁護人=「それから筆跡鑑定、血液型の鑑定ですね、石田豚屋さんに出入りしておる人以外にやったという記憶はありますか」

証人=「ええ、石田豚屋さん以外にもあります」

山上弁護人=「誰ですか」

証人=「名前は分かりませんが、大勢筆跡鑑定、血液型鑑定は致しましたから」

山上弁護人=「あなたの記憶では何名くらい、石田豚屋さんに出入りする人以外について捜査した記憶ですか」

証人=「そういう風に区分けしては覚えておりませんが、全部では三、四十名やったわけです。そういう記憶です」

山上弁護人=「石田豚屋に出入りしている者を含めて三、四十名という意味」

証人=「はい、現時点の記憶では」

山上弁護人=「その中で石田豚屋に出入りしてないというのは何名くらいか分からない」

証人=「はい」

山上弁護人=「それからさっきあなたの千葉県の方ではひっこくし」 

証人=「ひっこくりと」

山上弁護人=「先ほど裁判長がその点について補充的に質問されたんですが、千葉で言うひっこくりは埼玉で言うひこつくしだというように理解したのかという質問があって、あなたは"はい"というような趣旨でしたが、それは今の時点でそう思うんですか、当時そう思ったんですか」

証人=「当時もそう自分は思っておりました」

山上弁護人=「ひこつくしというような名前の結び方、これは先ほど普通に用いられる結び方の一つだという具合にお答えになりましたね。しかしひこつくしについても、特に捜査されたようにも聞こえたんですが、どういう所でどういう職業の人がそういう結び方をするとかいうようなことは」

証人=「結び目全体に対する捜査をやらせた記憶はあります」

山上弁護人=「じゃ、ひこつくし様の結び方というものについて関心を持って捜査をなさったという風に、そうなのか、どうなのか」

証人=「一つの捜査のあり方として捜査をさせました。捜査というのは全部捜査するわけですからそういう意味で捜査をしたんです」

山上弁護人=「それから石川君は自供したとされておるんですが、善枝さんを穴に、芋穴に吊るしたということになってますね。これは何か自供は、今問題外にして何か客観的なそれに見合う証拠がありますか。あなたのご記憶で」

証人=「この死体の縛った、背面になっていたわけですね。その上に長い紐がただのっけてあったんですね、だから、それで吊るしたんだろうという風に当時思っていました」

山上弁護人=「長い紐が」

証人=「荒縄が」

山上弁護人=「それで吊るしたんだろうという風に考えたわけですか」

証人=「ええ、そういう風に自供してましたから」

山上弁護人=「芋穴に吊るした状態については詳しく調べましたか。例えば死体のどこに紐を結えて穴にぴんと張ったまま吊るしたのか、死体の頭なり一部が芋穴の底に着くような状態に緩んでおったか、ぴんと張っておったか、ということは」

証人=「私はその場所、現場でそれを検討したその時は行きませんので詳細には分かりません」

山上弁護人=「そうすると、芋穴に吊るしたという風な供述があって、それに見合う事実としては荒縄が長いのが付いておったから芋穴に吊るしたんだと想定したということですね」

証人=「そういう記憶があります」

山上弁護人=「それだけですか」

証人=「他にもあったかも知れませんが、覚えておるのはそれだけです」

(続く)

(被害者の遺体に巻きつけられていた荒縄。写真は"無実の獄25年・狭山事件写真集=部落解放同盟中央本部中央狭山闘争本部・編、解放出版社"より引用)

                                            *

・・・石田登利造。まるで、すでに弁護人は真犯人を特定している感がうかがわれる質問であるが、弁護士という職業柄そういった情報や通報は当然に持ち込まれたであろうし、一方で警察においても一般人からの投書やタレコミが寄せられ、事実その情報の選別に相当な労力がかけられたことは裁判で明らかになっている。ここで断っておくが、事件の真犯人が石田登利造だと言っているわけではなく、弁護人の問いが何かそういったニュアンスを窺わせてはいないか、という私個人の意見である。