アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 980

【公判調書3065丁〜】

               「第五十七回公判調書(供述)」(昭和四十七年)

証人=諏訪部正司(四十八歳・浦和警察署刑事第一課長)

                                           *

橋本弁護人=「その奥富孝志以外に善枝、あるいは善枝らしき者を見たという届出をした人はおるんじゃないですか」

証人=「ちょっと記憶ありません」

橋本弁護人=「中島いくさんという農家の方が届出をしておりませんか」

証人=「名前を出されると、そういう話があったように思います」

証人=「その人についてはどんな記憶が残っておりますか」

証人=「今言われて初めて気がつく程度のまあ重要度として見てた程度です」

橋本弁護人=「あまり重要視しなかったと、こういうことですね」

証人=「はい」

橋本弁護人=「その中島さんという人をあなたは直接は調べてないんですか」

証人=「おりません」

橋本弁護人=「善枝さんの学校の先生で、善枝さんを目撃したという人がいるんじゃないですか」

証人=「それは郵便局の近く辺りじゃないでしょうか」

橋本弁護人=「郵便局というよりも、むしろガードの方らしいんですがね」

証人=「その点は記憶ありませんね。どうしてもその後の関係になってきますから、混同しやすいですね。踏切の地点であったという風なことと混同しやすくなりますね」

橋本弁護人=「その今あなたが言った踏切というのはどの踏切でしょうか」

証人=「今、弁護人が仰られてるガードと、それから入間川駅との中間の所に踏切があるんです」

橋本弁護人=「荒神様に抜けるところの踏切ですか」

証人=「はい」

橋本弁護人=「あの踏切の近くで善枝を見たという目撃者もいるんですか」

証人=「今、学校の先生の話がそのように出ましたから、それであるいはそれに、じゃないか、ということです」

橋本弁護人=「そのあなたの記憶している学校の先生というのは女の先生でしょうか、男の先生でしょうか」

証人=「正確には」

橋本弁護人=「覚えてないですか」

証人=「ええ」

橋本弁護人=「その先生から供述調書を取ったかどうかはどうですか。あなたでなくとも誰か警察の人が」

証人=「・・・・・・ちょっとはっきりしません」

橋本弁護人=「相沢という名前の先生、覚えていませんか」

証人=「ちょっと忘れました」

橋本弁護人=「これも新聞やその他の報道で我々は少し知っている程度ですがね、ガードの付近で善枝を見たと、あるいは善枝らしき人物を見たということを言っておるようなんですが」

証人=「その点はどうも・・・・・・はっきりしませんですね。というのは報道関係者が当時四百人からいたわけです。従いまして私共の捜査のあとを尾けまして、その後、同じ人員で聞き込むと、こういう風なことでございましたから、これは自ずから警察で捜査をしていないものまでも報道に出るというのが実情でございました」

橋本弁護人=「だから警察の関知しないところで、いろいろ事件について報道されたこともあると、こういうことですね」

証人=「そうです」

橋本弁護人=「五月二日の夜、佐野屋付近に張込みをしましたが、これは最初は狭山警察の責任でその準備をしたわけですね」

証人=「はい」

橋本弁護人=「で、途中から県警本部が入ってきたと」

証人=「はい」

橋本弁護人=「そうすると狭山警察から県警本部の方に指揮が移ったと、こういうことになるわけですか」

証人=「合同ということになります」

橋本弁護人=「そうすると最初は狭山警察署の単独捜査で」

証人=「それにも大谷木警部が参画しております」

橋本弁護人=「それにもと言いますのは」

証人=「狭山署の計画にも」

橋本弁護人=「大谷木警部は県警本部の人ですか」

証人=「当時はそうです」

橋本弁護人=「そうすると狭山署の単独捜査の時期というのはどの時期まででしょうか」

証人=「主として五月二日の日が単独捜査ということになりまして」

橋本弁護人=「五月二日の日中の捜査ですね」

証人=「ええ、日中の捜査です」

橋本弁護人=「で、張込みの段階から県警本部も入って来て合同捜査になったと、そういうことになるわけですか」

証人=「ええ」

橋本弁護人=「その張込み配備計画書が二通出来て、結局第一回目のが修正されたわけですね」

証人=「はい」

橋本弁護人=「ですからそれは狭山署の作ったものを県警本部の方は修正をしたのではなかろうかと、こう考えてそういう質問をしたんですが、そういうことになりますか」

証人=「はい」

橋本弁護人=「その狭山署の作った張込み計画と、県警本部が作った張込み計画は、一番大きな違いは一言で言いますと、どこにあるんでしょうか」

証人=「車という文字が出ております。その車ということの検討を更にする必要がある。同時に、途中から被疑者が現われるのではないかと、この二点が変更になった点であります」

橋本弁護人=「そうすると最初のものでは被疑者は車で来るということだけで配備をしたということになるんですか」

証人=「狭山署の計画でございますか」

橋本弁護人=「はい」

証人=「いや、当然車のことも考えたわけです」

橋本弁護人=「車と、歩いて来ることも考えたわけですね」

証人=「はい」

橋本弁護人=「狭山署の配備計画は」

証人=「そうです」

橋本弁護人=「県警本部の方は車だけですか」

証人=「車と、途中その中田登美恵さんを歩かせるように変更したわけです」

橋本弁護人=「歩かせるというのは」

証人=「というのは初めは車で佐野屋まで連れて来るということになっておったわけです」

橋本弁護人=「それは狭山警察署の計画ですね」

証人=「はい」

橋本弁護人=「県警本部の方は、そうすると登美恵さんの自宅から佐野屋まで徒歩で歩かせると、そういう風に変えたわけですか」

証人=「いや、地図を見ないとちょっと名前を忘れましたが、地図を見れば場所が分かります」

橋本弁護人=「その場所という意味は」

証人=「中田登美恵さんが歩いて佐野屋まで行った地点です」

橋本弁護人=「じゃ、ある地点まではやはり車で来て、そこで降りて、あとは佐野屋まで歩いたと、そういうことになるわけですか」

証人=「その通りです」

橋本弁護人=「それは車で来ちゃまずいとか、犯人に気付かれるとか、そういうことですか」

証人=「張込み員に恐らく登美恵さんが行くというのをよく分からせる意味からだと私は判断しました」

橋本弁護人=「要するにそれは県警本部の方でやったほうがいいという」

証人=「が、強かったですね」

(続く)

写真左端の建屋が佐野屋であり、右端付近に犯人が現れた。その後犯人は畑の中を、写真手前方向に向かって逃走した。