【公判調書3674丁〜】
「第六十六回公判調書(供述)」(昭和四十七年)
証人=石川一雄被告人
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山梨検事=「自分に請求されては困ると、警察に言ってくれという風に水村の奥さんに言ったことはないのかね」
証人=「あったかも知れません。自分が警察に行ってからですから」
山梨検事=「今言ったように警察へ行ったのは、そうすると、三十八年の三月の」
証人=「三月頃ですね。自分が行った時は狭山警察でストーブを焚いていたからね」
山梨検事=「狭山警察へ行ったわけですか」
証人=「そうです」
山梨検事=「応対に出た人は誰ですか」
証人=「ちょっと名前は分からないですけど、一人は名前知らないけど入曾の駐在所にいた人ですね、当時、名前はちょっと分からないですね。で、しょうがないから少しあたっていけやと言うからあたっていったですね。で、そういう話をいろいろしていたです」
山梨検事=「これは控訴審で一番最初のあんたの、その、事実を認めた理由の説明として、近所の人が自動車一台を盗んで八年食ったと」
証人=「八年とは言わない、八年くらいですね」
山梨検事=「だから俺は十年ならいいと思ってまあ認めたというような趣旨のことを話しているんだがね」
証人=「はい」
山梨検事=「この、自動車一台盗んで八年というのが何としても腑に落ちないのだがね」
証人=「自分としても今考えると、恐らく執行猶予で三年五年くらいでうたれて、それで自動車強盗して三年くらいうたれて、八年と。そうなったんじゃないかと思うんです。水村○○というんですがね、自分ちの裏のほうの」
山梨検事=「それがどうなったというんですか」
証人=「だから当時はそんなことは分からないけど、今考えてみると三年五年の執行猶予で出て、それですぐまたそういう自動車強盗か何かしてそれで三年くらいうたれて八年、そういうあれじゃないかと思うんですが、今考えると」
山梨検事=「まあしかし、あなたとしてはさっきの水村の賠償問題でも腑に落ちなきゃ、ちゃんと警察まで聞きに行くくらいの才覚のある男なんだから君が車一台で八年なんて」
証人=「自分はその当時悪いことをしていないんだから」
山梨検事=「自動車一台で八年受けるかどうか、誰でも考えるんじゃないんですか」
証人=「いや、そこまでは自分は悪いことをしていないんだから、そんなことを考える必要ないんじゃないですか。常識から考えたってそうじゃないんですか」
山梨検事=「次に豚屋の石田一義さんがあんたに血液型のことを尋ねたことについて聞きますがね、これはまあ二十七回公判の二四八〇丁、"お前A型かB型か"というようなことを聞いた」
証人=「ええ、もっとほかのことを言ったかも知れないですね」
山梨検事=「何でそんなことを聞きに来たんですか」
証人=「そこまではちょっと分からなかったですね」
山梨検事=「あなたに対してA型かB型かと聞きに来るのにわけが分からんということはないでしょう」
証人=「それを聞きに来た時に、実はこういうわけで心配しているから聞きに来たんだと言ったですね」
山梨検事=「実は、というのは」
証人=「善枝ちゃん殺しじゃないんですか」
山梨検事=「善枝ちゃん殺しで犯人が血液型がこうだからお前さんは」
証人=「犯人がと、そこまでは言わなかったですね。ただ血液型を聞かせてくれと言ったですね。あとはほとんど聞かなかったですね」
山梨検事=「その聞きに来た当時、もう新聞その他で善枝ちゃんをやった犯人が血液型がB型であるというようなことが出ていたんじゃないんですか」
証人=「出ていたでしょうね。死体が上がったですからね」
山梨検事=「それだからあんたにそのA型かB型かということを聞きに来たと、こういう風に考えていいんじゃないの」
証人=「もちろんそうでしょうね、考えれば」
山梨検事=「それであんたはどう答えた」
証人=「A型かB型かどっちか答えましたよ。どっちか、もちろん自分は血液銀行へ行ったことがあるからね。下落合でA型と言われたりB型と言われたりしたですね。自分も当時は警察でその通り話したから調べてあると思いますが、そういう風に言ったですね。だけどB型のほうが多かったと思うんですね。自分は下落合と日暮里へ行ったことがあるからね」
山梨検事=「じゃ何でB型かも知れないということを答えなかったんですか」
証人=「B型かA型かどっちかと言ったです」
山梨検事=「"どっちか答えたと思います。多分A型だと言ったかも知れませんが"と言っているね」
証人=「ええ」
山梨検事=「どうして。B型のほうが多かったらB型と答えればいいでしょう」
証人=「そんなことはどっちだっていいじゃないですか、自分がやったんじゃないんだから」
山梨検事=「石田豚屋の人がわざわざ犯人がB型かも知れないと、君は血液型はどっちなんだと」
証人=「B型かも知れないというのはB型と出てるんじゃないんですか、犯人が」
山梨検事=「だから君はB型かA型かと聞きに来たんでしょう。だから君の答えとしてはB型かも知れないという答えがあってもいいんじゃないの」
証人=「それはもちろんそうでしょうね。だから自分はA型かB型かどっちかを答えた。だけど多分A型と言ったかも知れませんね」
山梨検事=「なぜそういう答えをした」
証人=「そこまでは分からないですね。自分が犯人じゃないんだからそういうことまで考えることはないんだから」
(続く)
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○石川被告人は「血液銀行へ行ったことがある(下落合と日暮里)」と供述しているが、これは日本国内において1960年代まで民間企業が運営していた「血液銀行」を指すと思われる。「売血」とも呼ばれ、献血した者にお金を払うというシステムが存在した。400ccでおよそ1,200円であり、その末期には牛乳瓶一本のみが提供されたらしい。金欲しさに多量の売血を行なう者もおり、過剰な献血後はふらふらになる姿が目撃されていたとも聞く・・・。