【公判調書3041丁〜】
「第五十七回公判調書(供述)」(昭和四十七年)
証人=諏訪部正司(四十八歳・浦和警察署刑事第一課長)
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石田弁護人=「三十八年五、六月頃の狭山市長は何という方でしたでしょうか、いわゆる狭山事件が発生した頃」
証人=「最近亡くなりましたが俗に、石川市長と呼んでおります」
石田弁護人=「市長さんなどとは、あなた方、職務の関係でお会いになる機会はよくあったのでしょうか」
証人=「よくとは、どのくらいの」
石田弁護人=「つまり、こう聞きましょう。市長さんとその頃会ったかどうかですね」
証人=「私の在任中、数回会っております」
石田弁護人=「いわゆる狭山事件が起きた、女子高校生が誘拐され、殺害されたということで、市長さんが非常に心配していたような新聞記事、あるいは週刊誌の記事、そういうものが発見されるわけなんですがね、市長さんがいろいろ心配して、捜査本部なり狭山署なりに足を運んで来られたことはありませんか」
証人=「私は会っておりません」
石田弁護人=「それから、狭山署に勾留中、石川一雄君から、さっきご覧に入れた参考人調書を含めて、たくさんの供述調書を取っておりますね」
証人=「たくさんとは、どのくらいのものですか」
石田弁護人=「まあ、供述調書を取っていますね」
証人=「はい」
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裁判長=「誰がということですか」
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石田弁護人=「警察官がということです」
証人=「はい」
石田弁護人=「毎日のように、あなたばかりでなく山下さんなども含めて、供述調書を取っておりますね」
証人=「はい」
石田弁護人=「その狭山署で、現在の被告から取った、当時の被疑者から取った供述調書は、どのように取り扱われていたかお伺いしたいんですが、狭山署で供述調書を作成すると、その供述調書は狭山署に置かれたままになっておりましたでしょうか。それとも捜査本部なり、どこか検討する場所へ運ばれたのでしょうか」
証人=「これは、狭山署から特捜本部に持って行き、上司の閲覧を受けました」
石田弁護人=「それは取り終わった当日に、いわば直ちに捜査本部へ持って行くという扱いだったのでしょうか、それとも何日か分をまとめるというような状況だったんでしょうか」
証人=「毎日のように特使をたて、あるいは取調官みずから特捜本部に持って行っております」
石田弁護人=「あなたも直接捜査本部に、自分が取った供述調書を持って行ったことがありますか」
証人=「あったように記憶してます」
石田弁護人=「何回かあったような記憶でしょうか」
証人=「そこの記憶、何回という記憶は忘れております」
石田弁護人=「一回であったか、あるいは二、三回、あるいは五、六回あったかは分からないということですね」
証人=「はい」
石田弁護人=「ところで捜査本部へ持って行くまでの間に狭山署で、山下さん、あるいは清水さん、あるいはあなた、あるいは検察官といった人たちが、目を通すということはなさらなかったでしょうか」
証人=「そのような記憶はありません」
石田弁護人=「した記憶はない」
証人=「はい」
石田弁護人=「すると、狭山署に、いわば主な取調官などがいても、その人たちの目にはその場で触れることなく、捜査本部へ供述調書が持って行かれるという状況だったのでしょうか」
証人=「そのように記憶しています」
石田弁護人=「あなたの場合を考えてみますと、たとえば清水さんが石川君から取った供述調書は、狭山署であなたの目に触れることなく捜査本部へ運ばれたということになるんでしょうか」
証人=「その率が多いように記憶しています」
石田弁護人=「ご覧になった時もあると」
証人=「これは組織捜査で、適正捜査をするために恐らく縦割りでやってますから、全部、大多数がその調べ関係者のみが持って行き、私ども、他の調べ官の調書は見た記憶はありません」
石田弁護人=「でも、取調べというのは、普通はだんだん発展していくものなんですよね、決して一回で完結するという性格ではなくて、だんだん発展していくもので、前の人がどういうのを取ったかということは取調官が聞いてないと、現実に取調べ出来ないんじゃないかと思うんだけども」
証人=「そういうこともありますが、しかしながらまた、先入観を与えるようなことは極力避けております」
石田弁護人=「先入観の問題とは別個なんですがね、前の人の時にこういう調書ができているということはやはり頭に入れておかないとね、先入観を持つか持たないかは別の問題ですよ。取調べ自体ができないと思うし、それでお伺いしているわけなんですがね」
証人=「弁護人が仰るのは、いつのことであるか、あるいは期間が先へ行って、この期間中のここの部分を聞いてるというそいつが明確でないので・・・」
石田弁護人=「狭山署に石川君が勾留されていた時期のことです」
証人=「これは、まだ犯人であるかないか、それがはっきりしない間、捜査官に先入観を持たせるような捜査をやるようなことはありません」
石田弁護人=「だから、先入観を持たせるような捜査ということで私聞いているんじゃなくて、あなたが、たとえば六月一日に石川君を取調べてる、すると、その前日までの清水さん、あるいは山下さんがお作りになった供述調書というのも当然これはご覧になっていると見なければ、取調べがスムーズに出来んじゃないかと、スムーズかどうかは別として、取調べ自体がいつでも何というか発展しないままに終わるのではないか、そんな捜査をするわけないんで流れの中で捜査というものはなされて行くと思うんですが、だから、たとえば六月一日にあなたが石川君を調べたという時には、それ以前の清水さん、山下さんなどの供述調書はご覧になってお調べになったわけでしょう、それを言ってるんです」
証人=「それは、調べ状況の詳細は聞きませんが、その人その人の取調官の個性があるわけです、得手、不得手があるわけです、それに基づいてやっておりますから、画一的なお話は出来ません。それで私どもは、そのようなことが記憶あるほど記憶して調べにあたったことはない・・・・・・」
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裁判長=「ちょっと今のところよく分からないがもう一ぺん言ってご覧なさい」
証人=「前の調べの内容をあらかじめ頭に置いて調べているかいないかというご質問だと思うんです」
裁判長=「そう、だから、前の調書を見なければ自分の調べをしても仕方がないという場合もあるが、そうじゃない場合もあるという趣旨なんですか」
証人=「ええ、そうです」
裁判長=「回りくどくて分からなかったがそれに基づいて聞いて下さい」
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石田弁護人=「そうしますと、被告人の供述調書をご覧になるのは、捜査本部へ出向いて見ていたんでしょうか、それとも狭山署で見ていたんでしょうか」
証人=「出向いて見たという方が多いでしょうね」
石田弁護人=「それは、主に昼間行かれたんでしょうか、それとも夜行かれたんでしょうか、見に行かれる場合」
証人=「夜が多いです」
(続く)