【公判調書3044丁〜】
「第五十七回公判調書(供述)」(昭和四十七年)
証人=諏訪部正司(四十八歳・浦和警察署刑事第一課長)
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石田弁護人=「ところで、被告人の供述調書については、警察によって謄本が作られておるんですがね」
証人=「はい」
石田弁護人=「ご存じですね」
証人=「はい」
石田弁護人=「謄本は、どこで作られたか覚えていますか」
証人=「堀兼の特捜本部が主としてこしらえたものです」
石田弁護人=「主としてと仰いますと、一部は謄本を作る場所として、狭山署も使われたことはあるんですか」
証人=「これが、初めの期間と、最後の期間いわゆる川越署へ留置されておったような場合で謄本が落ちていたものについて本当の数少ない謄本をこしらえたような記憶がありますし、事件後について、謄本の必要性を認めた時に、狭山署でこしらえたという意味です」
石田弁護人=「すると、捜査本部でこしらえたのが殆どだが、狭山署で、いわば時間的に言うならばのちの時点で作ったものもあると、こういうことになりますね」
証人=「はい。その中でも、本当の記憶があるのは、大したものはこしらえてないような気がします」
石田弁護人=「じゃお伺いしますが、大したものじゃないものと仰いますと具体的には、どういう調書、形式からのご指摘でもいいし、時期的なご指摘でも内容でもいいですが、どういう内容の調書だったんですか、狭山署であなたが経験されたケースは」
証人=「記憶はありません」
石田弁護人=「記憶がないとしますと、それが重要な調書の謄本であったのか、重要でない調書の謄本であったか、あなたには判断が今つかないのではありませんか」
証人=「いや、重要なものは検察庁のほうに送ってありますから、それに伴う勤務割りだとか、部隊、いわゆる捜査員の編成ぐらいの程度です」
石田弁護人=「いや被告人の供述調書の謄本のことをお聞きしているんですがね」
証人=「それはありません、狭山署では、ないと記憶しております」
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裁判長=「最初からの弁護人の問いは、被告人の、警察における供述調書のことを聞いてるわけです、その謄本を作ったことがあるだろうと。それは、あなたはあると。それをどこで作ったか、あなたは主として堀兼の特捜本部で作ったと、主としてという言葉を使った。主としてだから、主としない部分があるだろう、主としない部分はどこで作ったかという問いになって、ある部分は、こういう時期の分を狭山署で作った少数のものがあるだろうという答えをあなたはした。それで狭山署で作った分は大したものじゃないように思うと答えたんで、そこで弁護人のほうじゃ、重要なものと大したものじゃないというものは、具体的‥という言葉を使わなかったかも知れないが‥どういうものか具体的に覚えているかという趣旨の問いがあって、それに対してあなたは記憶がないということを言ったんだが、それは初めっからあなたとしては答えは、警察で作成された被告人の供述調書のことについて答えをしたのか、それとも途中でこんがらがってほかの事も混ぜたのか、それを質(ただ)しているわけです」
証人=「供述調書につきまして訂正させて頂きます。供述調書は、堀兼の特捜本部でこしらえた以外には狭山署では記憶がないと思います」
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石田弁護人=「供述調書の謄本ですよ」
証人=「はい」
石田弁護人=「そうしますと、すべて特捜本部のほうで作ったのであって、被告人の供述調書の謄本は狭山署では一切作っていないと、こういうことですか」
証人=「そのように記憶しております」
石田弁護人=「ところで当審になって狭山署からも謄本が提出されているようなんですがね、県警本部と狭山署の両方から出されているところを見ると、狭山署でも作ったものがあるのではないかとも思われるんですがね、どうなんでしょうか」
証人=「期間を明確にして頂きたいと思います」
石田弁護人=「その謄本の期間は、要するに被告人がいわゆる別件逮捕、最初に逮捕されてから七月の起訴に至るまでの期間のあれなんですがね」
証人=「ないように記憶しています」
石田弁護人=「すると、狭山署に、いつの時点かは分かりませんが、供述調書の謄本が保管されておるということは知っておりましたね、あなた」
証人=「はい」
石田弁護人=「いつの時点から狭山署に、その謄本が保管されるようになったのでしょうか」
証人=「特捜本部が解散になってからです」
石田弁護人=「特捜本部の解散はいつ頃のことでしょうか」
証人=「被疑者が浦和拘置所に移された二、三日後ではないかと思います。日は記憶ございません」
石田弁護人=「お伺いしたのは、狭山署で被告人の供述調書の謄本を保管した目的は、どういうところにあったのでしょうか」
証人=「これは事件の検討、反省、また内部的な問い合わせに答えるためにとってあります」
石田弁護人=「内部的な問い合わせというのは、どういうことを意味するんでしょうか」
証人=「本庁あたりから、この事件につきまして、反省資料が、反省すべきところがないかということで主として使うわけです」
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裁判長=「本庁というのは、どこ」
証人=「たとえば組織がございますので警察本部、あるいは管区警察」
裁判長=「中央のですか」
証人=「はい」
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石田弁護人=「そういった内部的な問い合わせは県警本部で事足りないんですか。第一線の狭山署ではなくて、県警本部にもありますからね。県警本部で事が足りないんでしょうか」
証人=「それは地元にも直に問い合わせがあるような場合がありますから、とっております」
石田弁護人=「念のためお伺いしておきますが、被告人調書の謄本は、県警本部と狭山署以外のところではどこにも保存されていないわけですね」
証人=「いないわけです」
石田弁護人=「すると謄本というのは、二部作ったのでしょうか」
証人=「その通りです」
石田弁護人=「関東管区なり、あるいは警察庁には行ってないんでしょうか」
証人=「私は狭山署のことでその謄本がまた更に謄本されてると、狭山署においてはそのような記憶はありません」
(続く)