アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 630

【公判調書1963丁〜】

                    「第四十回公判調書(供述)」⑬

証人=河本仁之(三十七歳・弁護士。事件当時、浦和地検検察官)

                                          *

橋本弁護人=「同じく七月三日付のあなた名義の被告人の調書に荒縄と細引について書かれていますが、荒縄について調書を作成した記憶がありますか」

証人=「記憶としてはっきりしませんが、そういう調書があるのならば作っているでしょう」

橋本弁護人=「荒縄についてどういう内容の調書を作ったか記憶ありませんか」

証人=「内容は記憶ありません」

橋本弁護人=「調書を見ると荒縄は二箇所から取って来たとなっていて、一つは中川ゑみ子という人の家の垣根代わりに考って(注:1)あったもの、もう一つは中川家に隣接した建築現場の周辺に張りめぐらされていたものとなっていますが、そう言われて思い出せませんか」

証人=「ちょっとはっきりしません」

橋本弁護人=「荒縄についてはあなたはかなり捜査しているわけでしょう。先程の証言によるとあなたの最初の捜査は荒縄についての傍証固めだったということですが」

証人=「そうだったようです」

橋本弁護人=「死体に付着していた荒縄を現実に見ましたか」

証人=「当然見たと思います」

橋本弁護人=「中川さんという人と、椎名さんという人の建築現場の大工さんの余湖さんという二人の人は、五月一日ごろ荒縄が無くなったという供述をしていて、その供述はこの法廷にも提出されていますが、この二人の供述する紛失した荒縄と本件の死体に付着していた荒縄との同一性について捜査をしたことがありますか」

証人=「中川ゑみ子さん、そういう人から事情を聞いた時には、死体についていた荒縄を示してその同一性を確認してもらっているのではないかと思います」

橋本弁護人=「あなたの同一性の確認というのは、紛失したという人に見せてその供述を得たという方法が一つで、それ以外に何かやっていますか」

証人=「それだけだったのではないかと思います」

橋本弁護人=「荒縄の太さとか長さということについてあなたは捜査していませんか」

証人=「被害者に確認させるについてその点大いに注意したとは思いますが」

橋本弁護人=「たとえば、あなたはどれくらいの長さ、太さの荒縄が紛失したのかということを確認し、それから死体にはどのくらいの長さ、太さの荒縄が付いていたかを確認し両者を突き合わせてみるということをしましたか」

証人=「それはしているだろうと思います。していなければ手落ちでしょうね」

橋本弁護人=「太さの点では紛失したのと死体に付いていたのと一致しましたか」

証人=「一致すると見たのだと思います。その点で矛盾があるという風に考えた記憶はありませんから」

橋本弁護人=「長さの点ではどうですか」

証人=「大体符号するという結論になったのだと思います」

橋本弁護人=「本件の死体に付着していた荒縄の長さはどのくらいのものか知っていますか」

証人=「メートル数は言えませんがそう短いものではなかったという記憶はあります」

橋本弁護人=「原検事の冒頭陳述によると死体に付いていた荒縄の長さは二十四、五メートルになるように思われるのですが、そういう認識はありませんでしたか」

証人=「二十数メートルぐらいの長さはあっただろうと思います」

橋本弁護人=「盗まれたという人たちの言う荒縄の長さはどのくらいになるか知っていますか」

証人=「ちょっとはっきりしません」

橋本弁護人=「神田正雄という警察官が荒縄を盗まれた人たちを立会わせて実況見分をし、その結果を六月三十日付で実況見分調書にして、それがこの法廷に提出されているのですが、あなたはその実況見分調書を当時見たことはありませんか」

証人=「一度は見ていると思います」

橋本弁護人=「その調書によると、盗まれた荒縄の長さを被害者の指示に基づいて復原(注:2)して測っているようですが、それによると合計三十一メートルぐらいになるのですが、そういう認識はありますか」

証人=「少なくとも数メートルというような短いものではなかったことは言えますね」

橋本弁護人=「死体に付いていたのは二十四、五メートル、盗まれた方は三十一メートルぐらいという風に長さが一致しないわけですが、そういうことに気付いて被告人に何か尋ねましたか」

証人=「尋ねたかも知れませんが、はっきりしません」

橋本弁護人=「長さの点についてはあなたの調書にも原検事の調書にも現われていないと見受けるのですが、あなたとしては被告人に聞きましたか、聞きませんでしたか」

証人=「その点を問題にして聞いたという記憶ははっきりしません」

橋本弁護人=「被告人が建築中の家の周辺から荒縄を取って来たという供述をしたと調書には記載されていますが、その記憶はありますか」

証人=「そういう記載になっているということ自体ははっきり記憶していません」

橋本弁護人=「荒縄が死体に付いているということについて認識していなかったということですか」

証人=「それは当時もちろん知っていました」

橋本弁護人=「死体に付いていた荒縄の長さと盗まれた荒縄の長さが一致するかどうかを確かめませんでしたか」

証人=「あるいは疑問を持って当たってみたかも知れませんが、それほど鮮明な記憶はありません」

橋本弁護人=「取って来た荒縄を全部使ったのか、一部どこかに捨てたのかという点については、あなたはどう考えましたか」

証人=「その当時どういう風に思ったか記憶がありません。今考えれば一部捨てたという風に考えるほかないでしょうね」

橋本弁護人=「七月八日付のあなたの調書によると、あなたは被告人に本件犯行の動機について聞いているようですが、そういう記憶はありませんか」

証人=「記憶としてはありませんが、まとめのような意味で書いたかも知れません」

橋本弁護人=「その調書によると動機は要するに金が欲しかったからだということになっていますが、調書にそう記載した記憶はありますか」

証人=「記憶としてはありません」

橋本弁護人=「あなた自身、当時被告人を取調べるに当たって犯行の動機が何であるかはもちろん考えたわけでしょうね」

証人=「はい」

橋本弁護人=「それで結論的には何が動機だと考えたのですか。起訴直前だから証拠はほとんど捜査当局に集まっていたようですね」

証人=「恐喝未遂だけであれば、まさに利欲のための犯行としか考えようがないわけですが、善枝さん殺しがあるので、それについては必ずしも利欲ばかりではないのではないかという見方が当然できるわけです。その点で最終的に聞いたのではないかと思うのですが、それに対する被告人の供述が善枝さん殺しも結局金を目当てにやったことなんだということだったと思います』(続く)

                                          *

(注:1)は原文の通り引用した(写真参照)。低学歴の私には意味が分からない。

(注:2)ここは「復原」ではなく「復元」が正しいと思いきや、両者はほぼ同義語として存在しているらしい。またしても低学歴が露呈された。