アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 591

【公判調書1854丁〜】

証拠関係目録(一)記載、証人=横山ハル、横田権太郎、第七回検証調書の取調は結果が取調済とあり、ここでは証拠関係目録(二)、証人=新井  実、小堀二郎、中  勲の三名が尋問を受ける模様である。証人の一人、小堀二郎は被告人宅の捜索差押に加わっており、弁護人はその際の写真撮影に関しても尋問したい旨が記載されている。

                  「第三十九回公判調書(供述)」①

証人=新井  実

年令=三十五歳

住所=埼玉県川越市城下町

職業=警察職員(埼玉県警察本部刑事部鑑識課勤務、技術吏員)

裁判長=「あなたの略歴を伺います。あなた何年何月にどこにどういう風にして入り、どういう仕事を経て、昭和三十八年頃はどういう仕事をしていて、その後どういう仕事を経て現在に至ったという略歴を述べて下さい」

証人=「昭和二十八年七月二十日付をもって埼玉県警察職員に採用されまして、三十八年の五月は現在の鑑識課に勤務しておりました」

裁判長=「鑑識課に勤務されたのはいつからですか」

証人=「昭和二十九年十二月一日からです」

裁判長=「それからいつまで鑑識課に」

証人=「現在も引続き」

裁判長=「そのまま引続き二十九年からずっとやってますね」

証人=「はい、そうです」

裁判長=「そうすると、身分は何ですか」

証人=「指紋主任。技術吏員ですね」

裁判長=「指紋主任というほかに、何か血液とか、そういう特殊な分野の主任とか、何かあるんですか」

証人=「兼務はしておりません」

裁判長=「そうすると、あなたは鑑識課なら鑑識課という課がありますと、そういう課長に相当する地位の人ですか」

証人=「違います」

裁判長=「課長はおるんですか」

証人=「課長はおります。ですから指紋係員の位置になるわけです」

裁判長=「何人くらいおりますか」

証人=「十五名おります」

裁判長=「指紋でね」

証人=「はい」

裁判長=「そういう人は指紋以外に何もやらないんですか」

証人=「ほとんど指紋の仕事をやってます」

裁判長=「そんなにたくさん指紋の仕事がありますか」

証人=「あります」

裁判長=「そのほかにはどういう係があるんですか」

証人=「現場係、写真係、庶務係、法医、理化学、足跡、文書」

裁判長=「これは筆跡鑑定ですか」

証人=「そうです。筆跡鑑定です。そういうところだと思うんですが」

裁判長=「そこにはそれぞれ主任はいないんですね」

証人=「おります。主任、係長、課長補佐、おります」

裁判長=「そうすると、主任というのはたくさんいるんですね」

証人=「おります」

                                           * 

植木弁護人=「その指紋主任におなりになったのはいつからですか」

証人=「昭和四十三年です」

植木弁護人=「そうすると、昭和三十八年頃には」

証人=「係員でおりました」

植木弁護人=「やはり指紋係員ですね」

証人=「はい」

植木弁護人=「その三十八年頃にも指紋以外のことはタッチしていないで指紋が専門であったと、こういうわけですか」

証人=「はい、そうです」

植木弁護人=「当時、県警の鑑識課で作成された文書を幾つか見ますと、作成者の名前が書いてあるんですが、そこに警察主事という肩書がついておりますが、これはどういうことを意味するんですか」

証人=「これは埼玉県の職員であります関係上、初めは埼玉県の事務吏員の試験を受けるわけなんです。それで、その当時の肩書はそういう関係で警察主事という名称だったわけです」

植木弁護人=「同じことで、やはり、警察技師という肩書のついた作成者の名前を見受けますが、これはどういうことを意味しますか」

証人=「これは本部長の認定なんじゃないかと私は思うんですが、警察本部長が警察技師と認めた場合に技術吏員の肩書がつくんじゃないかと思いますが」

植木弁護人=「そうすると、あなたは現在警察技師ですか」

証人=「そうです」

植木弁護人=「それはいつ頃からですか」

証人=「これはやはり四十三年頃だと思うんですが」

植木弁護人=「警察にお入りになる前はそういう何か指紋に関するようなことにタッチしておられましたか」

証人=「やっておりません」

植木弁護人=「そうすると、警察にお入りになってから指紋の検出方法については習得されたと、こういうことになるわけですね」

証人=「そうです」

植木弁護人=「指紋の検出方法にはどういう方法がありますか」

証人=「これは一般的には固体法という方法がございまして、アルミニューム粉末を主として使用して採取する方法、並びに液体法と申しましてニンヒドリンのアセトン溶液を使用しまして紙片から採取する方法、それから沃度ガスと申しまして、沃度をガス化させまして採取する方法、そういうような方法がございます」

植木弁護人=「それは今、あなたが所属している県警本部の鑑識課で行なっている方法という意味ですか、そうでなくて、更に、それ以外の方法は現在考案されていないという意味で、それだけであるという意味ですか、一般的に言って検出方法はそれだけであるという意味ですか」

証人=「主にそういう方法がとられているようです。ほかにも採取方法は粉末を変えて採取する場合がございますが、主として今、申し上げました方法で採取しているようです」

植木弁護人=「埼玉県警の鑑識課に限って言いますとどうですか」

証人=「埼玉県警察本部でも大体そのような、これは全国的にも同じような方法じゃないかと思いますが」

植木弁護人=「固体に付着した指紋はいわゆる固体法でおやりになるわけですか」

証人=「そうです。これは初め肉眼検査をいたしまして、その後固体法で採取する方法が普通一般的な方法じゃないかと思います」

植木弁護人=「固体では指紋の付着する表面の相違によって指紋が付きやすい、付きにくいということがあるわけでしょう」

証人=「まあ、粉末の使用の度合いによってですね、粉末が余計付いてしまう場合と、少ない場合とか、それはまあ、この検体によっていろいろ異なってくると思いますが」

植木弁護人=「一般的に言って指紋が検出しやすい固体というのはどんなものでしょうか」

証人=「検体ということですか」

植木弁護人=「はい」

証人=「やはりガラス製品とかですね、それから器みたいなものとか陶器」

植木弁護人=「陶器、磁器ですか」

証人=「そうですね。それからコップ、鏡、ああいうような製品はつきやすいと感じでおりますが」

植木弁護人=「万年筆は如何ですか」

                                          *

と、長らく続いた植木弁護人の尋問の意図が、ここでどうやら万年筆と指紋にありそうだということが伺える。言うまでもなく万年筆とは事件の被害者、中田善枝の所持品であり、石川一雄被告人宅鴨居から発見・押収され、被告人が事件の犯人と断定される証拠として扱われている物品である。召喚された証人が埼玉県警察本部鑑識課職員であることから、これは深い問答が聞けそうである。

なお、長文ゆえ尋問の続きは次回にて引用とする。

石川被告人宅、勝手場の鴨居から発見されたという万年筆。写真は"無実の獄25年・狭山事件写真集=部落解放同盟中央本部中央狭山闘争本部・編、解放出版社"より引用。