弁護人=「取調べを受けてる当時に、昭司さんというのが問題になったことがありますね」 被告人=「はい」 弁護人=「前に、あなたが述べたところによると、あなたの知っている昭司さんというのは、井戸掘りに行ったことのある昭司さんだったわけでしょう」 被告人=「はい、そうです」 弁護人=「その人のことは、言ったことがあるわけですね」 被告人=「はい」 弁護人=「その他に、警察のほうからどこのショージさんか聞かれたことがありませんか」 被告人=「あります。それは堀兼のほうに、やはりショージとかいう人が居たらしいです。そのことを言われたんです。それじゃないかと言われたです」 弁護人=「そこのショージを知らんかと聞かれたんですか」 被告人=「はい、だから知らないと言ったです」 弁護人=「そこのショージさんという家には、どういう人がいるか聞かれたですか」 被告人=「子供がいるとか言ってました。それで俺、半年間石田豚屋にいたから知っているかと思ったです。だけど私は知らなかったです」 弁護人=「堀兼に、子供のいる家でショージさんていう家があるんだけれども、知らないかと聞かれたんですね」 被告人=「はい」 弁護人=「それに対してあなたは知らないと言ったんですか」 被告人=「はい」 弁護人=「あなたとしては、知っている昭司さんというのは井戸掘りの昭司さんだけであるということですか」 被告人=「はい」 裁判長=「その井戸掘りに行った昭司さんの苗字は何ですか」 被告人=「こっちに来てから判ったですけれど、江田昭司です」 裁判長=「江田昭司というのは、警察の言う昭司じゃないんですか」 被告人=「いや、井戸掘りです。私は江田というのは知らないで、橋本だと思っていました」 裁判長=「江田昭司の家は、堀兼に入らないのですか」 被告人=「狭山市入間川です」 弁護人=「あなたが昭司という人を知っているというのは、橋本さんという人のうちの、娘さんのご主人だということで知ってたんでしょう」 被告人=「ええ、文江さんの」 弁護人=「つまり、橋本文江さんという人は知ってるんだね」 被告人=「ええ」 弁護人=「その人と結婚したのが昭司さんだという程度で知ってたんですね」 被告人=「ええ」 (続く)

事件当時の狭山市(裁判資料より)。写真は上空から撮られているが、昭和三十八年当時、農村で起きた殺人事件にヘリコプターを動員している事実は、いかにこの事件が国民に注目されたかを物語る。前年、東京で発生した吉展ちゃん事件での犯人取り逃し、それに次ぐ狭山事件での犯人取り逃しと、黒星を連ねた警察は国民の猛烈な批判に晒された・・・。ここで、老生の頭をよぎったのは、もし、吉展ちゃん事件を解決した平塚八兵衛刑事が狭山事件に投入されたら・・・という妄想である。真犯人を捕まえる、という事しか頭に無い平塚八兵衛は、時として上司(組織)と揉めることも度々であった。長谷部梅吉警視や関源三巡査部長とは対極に位置する御大であり、その捜査姿勢には冤罪の生まれる余地は無いからである。