再び【脅迫状の謎】⑧

石川被告の自白によれば、脅迫状は家で書いたという。書き上げた脅迫状は何度かに折りたたみ封筒へ入れられた。その後、脅迫状の内容を訂正するため封筒から脅迫状を出し日付や場所を書き直し、再び(ここでも折りたたむ)封筒へ収めた。脅迫する相手=中田栄作方へ到着し、玄関の硝子戸に差し込む直前に、何らかを確認するためか、封筒の封を開けた痕跡が残っていた(翌朝、玄関前に千切れた封筒の一部が落ちていたことを兄が発見している)。
脅迫状の作成からこれを中田家へ届けるまでの間、石川被告はどれほど封筒と脅迫状に触れたことだろうかと思い、それに該当する場面を抜き出してみた。さらにこれに検討を加えると、前述した場面では脅迫状が封入された封筒を二つ折りにするとか、ポケットへ仕舞うとかといった行為が必然となり、より封筒へ触れる機会が増すことになることは言うまでもない。したがって指紋の付着という観点から見れば、脅迫状が入った封筒はもはや石川被告の指紋・掌紋にまみれていたといってよいだろう。
ではいったい何が謎なのかというと、この脅迫状と封筒は警察の鑑識課によって指紋検出検査が行なわれたのだが、その結果検出された指紋は、この封筒を開封した被害者の兄=中田健治氏と、届出を受け内容を確認した警察官の、実に二名の指紋のみが検出されたという事実である。脅迫状と封筒が石川被告の自白どおりに扱われたとすれば、彼の指紋は脅迫状と封筒に残らざるを得ないのである。
そして何より驚くべきことは、裁判官は『指紋がないからといって、被告人は無実であるとは言えない』と言い、この謎に蓋を閉めてしまったことであった。