弁護人=「石田一義さんのことが出たので、ついでに伺いますが、この事件で逮捕される前に、石田一義さんがあなたの血液型を聞きに来たことがありますか」被告人=「あります」 弁護人=「いつ頃のことか憶えてますか」 被告人=「六日か九日頃だと思います。五月のですね」 弁護人=「六日か九日というのは、日にちが分かれるんだけど、はっきりしないですか」 被告人=「ちょっとはっきりしないです。とにかく休みだったことは間違いありません。勤め人がですね。それは、兄貴なんかと同級の川本こうぞう、あるいは私んちの隣の水村正一、それらとキャッチボールをやったんです。私の所の道で」 弁護人=「休みで、川本くんなんかとキャッチボールをやった日なんですね」 被告人=「はい」 弁護人=「あなたの、当時板橋に住んでたお姉さんがあなたの家に来たことがあるでしょう」 被告人=「五月の三日から十二日か、そのくらいまで居ました」 弁護人=「その間のことですか」 被告人=「ええ、居るうちです」 弁護人=「板橋の姉さんが居るあいだで勤め人の休みの日、野球をした日ということになるんですね」 被告人=「はい、そうです」 弁護人=「一義さんから血液型を聞かれた場所はどこですか」 被告人=「一義さんのうちです」 弁護人=「一義さんのうちへ、あなたが行ったんですか」 被告人=「キャッチボールしてたら、一義さんが俺を呼ばったです」 弁護人=「呼びに来たわけね」 被告人=「はい、それで一緒に行きますと、血液のことを聞いたんです」 弁護人=「一義さんは、何て聞いたの」 被告人=「お前A型かB型かと、そんなことを聞いたような気がします」 弁護人=「そう聞いた時には、あなた方の周りには誰もいないんですか」 被告人=「ええ、二人だけだったと思います。だけどそれは帰ってから川本こうぞうに話したと思います」弁護人=「それはいいんだけど、A型かB型かと聞かれて、あんた何て言ったの」 被告人=「どっちか答えたと思います。多分A型だと言ったかも知れませんが」 弁護人=「あなた、さっき血液銀行ということをちょっと言いましたね。血液銀行で自分の名前を書いたと」 被告人=「はい」 弁護人=「血液銀行へ行って、自分の血液を売ったことがあるんですね」 被告人=「あります」 弁護人=「そこで調べられた時、あなたの血液型は何でしたか」 被告人=「B型と言われたこともあるし、AB型と言われたこともあります」 弁護人=「いつも、同じ血液型じゃないですか」 被告人=「ええ、何だか、血がうすいと分かんないと言われました」 弁護人=「とにかく、いつもB型と言われてるんじゃなく、ほかのAB型と言われたこともあるんだね」 被告人=「はい」 弁護人=「それで、一義さんにA型とかB型とか、どっちか忘れたけれども答えたら、一義さんはそれに対して何か言いましたか」 被告人=「別に言いません。ただ義男のことはあまり言わないでくれと言いました」 弁護人=「それはどういう意味だと思いましたか」 被告人=「判らないです。それは水村正ちゃんに、そういうことも話しましたが、その意味は判らなかったです」 弁護人=「それは、死体が出て来た後であることも間違いないでしょう」 被告人=「間違いありません」 弁護人=「誰に対して、何をしゃべるなということは、あなたには判らなかったんですか。一義さんが何を言おうとしたのか」 被告人=「判らなかったです。ただ、悪いことを義男ちゃんと俺としたから、そのことだと思います」 弁護人=「あなたも起訴されている、一緒に茅を盗みに行ったり鶏を取りに行ったりしたことですか」 被告人=「ええ」 弁護人=「そういうことについて、弟のことをしゃべるなと言われたように思うんですか」 被告人=「はい」 弁護人=「こういうことを言われたということを、一緒に遊んでた人には言ったんですか」 被告人=「何しに来たんだと言ったから、話したです」 (続く)
*今回引用した調書の後半に、またしても狭山事件が抱える黒い闇、その片鱗を匂わす記述が見られた。しかし今はそれには触れず、公判調書を読了することを優先したいと思う。
(石川一雄被告人が勤めていた養豚場)