有名な未解決事件である『グリコ・森永事件』において、犯行グループは見事な逃げ切りを見せ、捜査当局の前からその姿を消したことは懐かしい。彼らが他の犯罪者より傑出していたことの理由を一つ挙げると、けっして直ぐ金に手を出さなかった点である。目的は金であるのだが、多くの犯罪者らが目の前の金にあっさりと手をかけ御用となる中、グリコ・森永犯グループは違った。優先したのは金を受けとることではなく、犯行の露見を防ぎ、目撃されず証拠を残さないこと、である。また、取引場所周辺における雰囲気の違い、違和感など、五感を十分働かせたうえ問題がないと判断した時、いよいよ金へ手をのばすこととなったであろう。この鉄則を守ったおかげで犯行グループは検挙されずに闇へと逃げ延びることができたのである。
以上のことから一つ狭山事件に絡めて言うと、佐野屋へ現われながらも身代金は受け取らずに逃走していった真犯人はグリコ・森永犯らと類似していると言えよう。身代金は目の前に準備されている、しかし佐野屋横の暗闇に人の気配を感じる、犯行の露見を防ぎ目撃されてはならない。真犯人はそのように判断し速やかにその場を離れていった。
身代金受渡しの晩、佐野屋から数十メートル離れた地点に二人の男が潜んでいたが、この時、一人が佐野屋方向に石を投げ、誰かが隠れていないか探りを入れたとされている。もちろん警察官の張込みを警戒してのことだ。やがて身代金を持参した被害者の姉との問答が始まるが、やはりこの間も警戒を怠らず、ついに佐野屋横の畑に誰かが潜んでいることを知り、『そこにいるじゃねえか』『おらぁ帰るぞ・・・』と言い残し脱兎の如く逃げ出した・・・。この男たちこそが狭山事件の真犯人であることは間違いない。

犯人の男らは写真左付近の桑畑に潜んでいた。奥に見える旗がかかった建物が佐野屋である(写真下)。
