アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 1017

『原文を読みやすくするために、句読点をつけたり、漢字にルビをふったり、中見出しを入れたり、漢字を仮名書きにしたり、行をかえたり、該当する図面や写真を添付した箇所があるが、中身は正確である』

【公判調書3184丁〜】

                  「第六十回公判調書(供述)」(昭和四十七年) 

証人=中田健治(三十四歳・農業)

                                            *

山上弁護人=「あなたは善枝さんのお兄さんですが、あなたのご経歴をお尋ねしますが、当時のご職業といいますのは」

証人=「事件当時は私は農業についていました」

山上弁護人=「農業をなさっていらっしゃったのは誰々ですか」

証人=「父に、自分に登美恵に喜代治が高等学校を夜間に行ってましたがその昼やって、その四人です」

山上弁護人=「農業のことは私、よく分からないのですが、現金収入というのはどういうことになるんでしょうか。中田家の日々の家計の収入支出というのは」

証人=「当時だと・・・・・・」

山上弁護人=「例えばごぼうを売って年額いくらとか、お茶だとか、そういうのは」

証人=「ちょっと金額は記憶が・・・」

山上弁護人=「現金の収入源は主としては何ですか」

証人=「野菜です」

山上弁護人=「どういうものですか」

証人=「人参、ごぼう、あの当時は葉物が始まっておりました。ホーレン草、小松菜」

山上弁護人=「そのほかに他人に土地を貸しているとか、アパートを建てて貸しているというようなことは」

証人=「全然ありません」

山上弁護人=「当時のお宅の生活費と申しますか、喜代子さんは外に出ていらしたようですが、どれくらいだったでしょうか」

証人=「現在のことは分かりますけれども・・・・・・、当時のことは父が一切やっておりましたから分かりません」

山上弁護人=「そうすると、例えばあなたが妹さんに万年筆や時計を買ってやったということがありますが、そういうお金はどこから出るんですか」

証人=「当時、私が池袋の石川会計事務所というところに出入りしていて仕事の手伝いをしていたもので、その時の手当などから出しました」

山上弁護人=「その石川会計事務所の手当から買ったのは時計ですか、万年筆ですか」

証人=「両方だと思います。入学以前、うんと前に買ったものです。恐らく半年くらい前じゃなかったかと思います。万年筆もそれから時計も」

山上弁護人=「入学というのは高校へ入学の」

証人=「ええ、そうです」

山上弁護人=「あなたの、石川会計事務所での当時の月給はどれくらいでしたか」

証人=「最初は一万二、三千円じゃなかったでしょうか」

山上弁護人=「これは通勤ですか」

証人=「そうです」

山上弁護人=「家から」

証人=「はい」

山上弁護人=「何年から何年まで」

証人=「一番最初、東大病院へ自分が療養生活で入ったのが二十歳の年ですから、それで二十五まで療養生活をしていたんです。半身不随になりまして。それで村田簿記に通ったり、東京会計学院に通ったりして、それから石川さんのところにご厄介になったんです」

山上弁護人=「二十から二十五まで東大病院に入院しておったんですか」

証人=「通院していたんです」

山上弁護人=「何の病気で」

証人=「顔面神経痛で半身不随みたいになったんです」

山上弁護人=「神経痛ですか」

証人=「神経痛じゃないんですが、今でもこういう風に、寄らないんです」

山上弁護人=「二十歳から二十五歳まで通院する傍ら、会計事務所に勤めておった」

証人=「そうです」

山上弁護人=「あなたは学校は失礼ですが、どこですか」

証人=「川越高校入間分校です」

山上弁護人=「夜学」

証人=「夜学です」

山上弁護人=「亡くなられた登美恵さんは上級に進学したいというご希望はなかったんですか」

証人=「自分自身も高等学校に入学することではなかったんですが、当時の中学の校長が特に薦めましたので行くことになったわけで、自分もそうですし・・・」

山上弁護人=「登美恵さんは中学でやめたんですね」

証人=「はい」

山上弁護人=「登美恵さんご自身として、自分は上に進学したいというようなご希望はお家の中で出て来ておったんですか」

証人=「それまでに母がおらなかったのでそういう気持ちを出すということが出来なかったように思っています」

山上弁護人=「善枝さんが高等学校に行かれたについては今、仰ったような学校の先生などの口添えもあったということですか」

証人=「そうです」

山上弁護人=「特に証人が夜学に行かれたについては経済的な理由、経済的に困難な事情があったということじゃないんですね」

証人=「農作業をやる以上手不足なもので、現在でもそうですが、自分は夜学に行く目的もなかったんですが、学校には行きたいと思っておりましたけれども行かしてくれなくて、行かないことを自分は誓っていたんですが、中学校の校長が薦められたんで」

山上弁護人=「それで定時制に行くことになったと」

証人=「そうです」

山上弁護人=「つまり経済的な問題で学資がなくてということではないんですね」

証人=「はい」

山上弁護人=「畑の労働などの、家庭の事情」

証人=「そうです」

山上弁護人=「事件当日のことに入りますが、あなたに思い出していただきたいのですが、五月一日の朝からのお仕事の内容、どういうことをなさったか。思い出していただくために、夜七時四十分頃に脅迫状を見つけたということになっていますから、それ以前のことを遡って、五月一日のお仕事はどういうことでしたか」

証人=「ホーレン草だか、山東菜だかを作ってたと思います」

山上弁護人=「それはお家でなさっていらっしゃったんですか」

証人=「家の前でやるわけです」

山上弁護人=「敷地の中で」

証人=「そうです」

山上弁護人=「その仕事はいつまでかかったんですか。何時頃まで」

証人=「三時か四時頃から雨が降って来て、雨にかかりながら納屋の軒先でやっていたんですが、五時くらいまでかかったんじゃないでしょうか」

山上弁護人=「そうすると五時頃から一服ということになりますか」

証人=「その間に三時休みとか、することはしますけれども」

山上弁護人=「五時以後はどういうことになるんでしょうか」

証人=「・・・・・・・・・・・・」

                                            *

裁判長=「自動車で迎えに行かれたのが六時五十分ということになってますが証拠上。その間ですね」

証人=「迎えに行く寸前までかかっていたように思ってますね、仕事が。それから洗ったり、荷造りしたりして。水洗いなどしますから」

 (続く)                                    

(事件当時の被害者宅納屋)

(同、母屋)