弁護人=「川越へ行ってからのことですけれども、川越の房の中に、中田○○(被害者名)さんに詫びるような言葉を書いたことがあるでしょう」 被告人=「あります」 弁護人=「どんなことを書いたか、今憶えていますか」 被告人=「ちょっと判らないです」 弁護人=「六月二十四日付の日付で、伊藤という警察官の実況見分調書があるんですが、それや、それに付いている写真を見ますと、丈夫でいたら線香を上げさせて下さい、ということを壁に書いてあって、それから切紙みたいな物で中田○○(被害者名)さん許してください、ということを壁の下の方に貼ってあるんだけれども、憶えてないですか」 被告人=「ちょっと判らないです」 弁護人=「何を書いたか憶えてないですか」 被告人=「ええ、書いたことは事実です」 弁護人=「壁に何かで書いて、それから切紙したことは憶えていますか」 被告人=「はい、憶えています」 弁護人=「どうしてそういうことを書いたのか、その事情をちょっと説明して欲しいんですが」 被告人=「最初、三人から一人と言ったのかな、とにかく殺したと言ってから、それじゃ○○(被害者名)ちゃんに詫び状のしるしがあるかと言われたんです」 弁護人=「誰からそういうことを言われたのですか」被告人=「長谷部さんから言われました。それから、あると、うっかり言ってしまいました」 裁判長=「長谷部にどう聞かれたのか」 被告人=「○○(被害者名)ちゃんに詫び状が書いてあるかと、で、書いてあるって言ったんです。どこだと言ったので狭山警察の留置場の便所の上へ書いて来た、と嘘をついてしまいました。そしたら、関さんがそばに居たので多分見に行ったんでしょう。それで夕方になって、私が帰された川越の留置場に入れられてしまったから、嘘をついてしまったから、慌てて今度は川越の自分の居た所へ書いたんです」 弁護人=「長谷部さんから、○○(被害者名)ちゃんに詫びる、いわば証の様な物をなにか書いたか、と聞かれたわけだね」 被告人=「はい、そうです」 弁護人=「どうして書いたと言ったんですか」 被告人=「書いてあるかと言われ、うっかり書いてあると言ったら、どこだと言われたから狭山警察と言ったんです。そしたら関さんが見に行ったらしいです。で、無かったのを聞かれるといけないから、夕方になって帰されたから川越の留置場で中へ書いたです」 弁護人=「川越へ書いたのは、狭山へ書いたと嘘を言って、本当に書いてなければ叱られるから書いた、ということになるんですか」 被告人=「そうです。で、紙を切ったのは、長谷部さんが紙で書いたというか、切ったというか、あれは長谷部さんに教わったんです」 弁護人=「教わったというのは」 被告人=「中田という切り方です。紙を二枚合わせて一箇所を切ると、中田と切れるんです。それは長谷部さんが教えたんです。それは浦和の区長さんにも、こういう風に切り方を教わったと書いたのを預けてあります」 弁護人=「その切り紙と言うのかな、いくつかに折って一箇所を切ると、中田という風になる。その切り方を教わったんだね」 被告人=「はい、そうです」 弁護人=「いつの事ですか」 被告人=「狭山にいる最後の方だと思います。教わったのは」 弁護人=「どうやら、房の中に当時貼ってあったものを見ますと、○○(被害者名)さん許して下さい、という風に読めるんだけれども、あとはどうしたんですか」被告人=「自分で書きました」 弁護人=「紙を切ったわけでしょう」 被告人=「ええ、そうです」 弁護人=「紙を切って、貼った上にさっき言いましたように、丈夫でいたらうんぬんと読める文字が書いてあるのですが、それは何を使って書いたんですか」 被告人=「マッチ棒だと思います」 弁護人=「爪じゃないの」 被告人=「マッチ棒だと思います」 弁護人=「マッチ棒があなたの房にあったのか」 被告人=「煙草を吸ってましたから、留置場の中で。だからマッチ棒がありました」 弁護人=「あなたは、川越にいる時は煙草もマッチも中に持っていたのですか」 被告人=「別に持ってたって訳じゃないですけれども、煙草を吸いたい時は見てる人が貸してくれるんです」 弁護人=「煙草をくれるの」 被告人=「はい」 弁護人=「で、房の中で吸うんですか」 被告人=「はい、そうです」 ・・・(続く)
狭山の黒い闇に触れる 285
【公判調書1185丁〜】