弁護人=「マッチは持ってたんですか」 被告人=「持ってないです。やはり貸すんです」 弁護人=「書いたマッチ棒というのは」 被告人=「マッチ棒はやっぱり自分の所にあったと思います」 弁護人=「煙草は房の中でよく飲んでたんですか」 被告人=「はい」 弁護人=「一日何本飲んでいたのですか」 被告人=「何本ということはないですけれども、ただ留置場の中で吸いたくなると、お願いしますとくれます」 弁護人=「誰がくれたの」 被告人=「名前ははっきり分かりませんが、青木さんというのは、一人名前を知ってますけれども、あとは坂戸の方の人だとか言ってました」 弁護人=「煙草を飲んじゃ駄目だということは言われなかったんですか」 被告人=「ええ、言わないです」 弁護人=「くれと言えば、いつでもくれたのですか」被告人=「ええ、くれます。引出しに入ってます」 弁護人=「前回の最後に、六月の二十三日頃から六月の三十日頃までの間は、いつも夜遅くまで調べられたと言ってますね」 被告人=「はい」 弁護人=「ちょっとメモが不正確ですが、十二時頃まで調べられたと言ってますね」 被告人=「はい」 弁護人=「いつも真夜中まで調べられたんですか」 被告人=「はい。一時頃まであります」 弁護人=「その、連日遅くまで調べられていた時期のことですが、調べが終わったのが何時か分かりましたか」 被告人=「分からないです。終えてから留置場へ帰されて、西側のうちの方の柱時計の音で分かるんです」弁護人=「終わった時間は分からんけれども、房へ戻ってから西側の家の柱時計が聞こえたんですね」 被告人=「はい」 弁護人=「それを聞いて、今何時だか分かったわけですね」 被告人=「はい」 弁護人=「その西側の家ですけれども、あなたの房とすぐ隣り合わせですか」 被告人=「そうです。くっついてるようでした」 弁護人=「柱時計ってどうして分かったんですか」 被告人=「うちにも柱時計があったものですから、そのような音だったから柱時計と思っていました」 弁護人=「十一時なら十一回、十二時なら十二回鳴るという時計ですか」 被告人=「はい、そうです」 弁護人=「その西側の家ですけれども、柱時計が聞こえたという他に何か憶えていることがありますか」 被告人=「南無妙法蓮華経と、そういう風な声が聞こえて来ました。そこの家から」 弁護人=「それはいつ頃ですか」 被告人=「川越へ行ってから殆どです」 弁護人=「殆ど毎日のように聞こえるのを聞いたわけですね」 被告人=「はい」 弁護人=「朝とか夕方とかいうことは」 被告人=「それはその時によってですけれども、十二時過ぎても聞いたことがあります」 弁護人=「真夜中のですか」 被告人=「はい。自分でもそれは少し、うちに居る時やっていたものですから」 弁護人=「あなたも南無妙法蓮華経を言ったことがあるんですか」 被告人=「言ったというわけじゃないけど、池袋へ私も行ってたし、工場長が入っていたので強制的にやらされました。それで自分でもやりました」 弁護人=「とにかく、南無妙法蓮華経をやったんですね」 被告人=「はい」 (続く)
房の中で煙草が吸えたとは、さすが昭和時代である。現在では、街中で煙草を吸うこともままならない。窮屈な時代であるなぁ。