(写真は“ 劇画・差別が奪った青春・解放出版社 ”より引用)
狭山の黒い闇に触れる 289
弁護人=「その紙を渡されたときの模様をちょっと詳しく聞きますけれども、霜田区長は何と言って、あなたにその紙を渡したんですか」 被告人=「石川、元気かいと、入って来たんです。後ろ向いて西側の方を向いて仕事をやっていたら。それで、これを読んで見ないかって渡されたんです」 弁護人=「それであなたは何と返事したのですか」 被告人=「はい、って言ったです」 弁護人=「そしてただ受け取ったわけですか」 被告人=「はい」 弁護人=「その紙は封筒か何かに入っていましたか」被告人=「入ってないです」 弁護人=「あなたのところに起訴状というのが届いたでしょう」 被告人=「はい」 弁護人=「それは判ってますね、どういうものか」 被告人=「はい」 弁護人=「今言った紙は起訴状ではないんですね」 被告人=「あれは、なんて言いますか・・・」 弁護人=「活字で打ったもの」 被告人=「ええ、あれは分かります」 弁護人=「活字で打ったものや印刷したものじゃないことは確かなんですね」 被告人=「ええ、ペンで書いたものなことは確かです。ボールペンかなんか分かりませんが」 弁護人=「その紙はどうしましたか」 被告人=「十二月頃まで持っていましたが、破いて捨てました。区長さんに聞いたら破いても構わないと」弁護人=「十二月頃まで持っていたというのは、房の中で持っていて、時々読んだりしていたんですか」 被告人=「はい、見たりしてました」 弁護人=「持っとけと言われたんですか」 被告人=「別にそういうことは言われません」 弁護人=「区長から破れと言われたの」 被告人=「そうじゃないです。自分で破いちゃっても構わないですかと、で、その前に起訴状を破いて捨てたことがあります。それで区長さんに聞いたら、一応怒られたもので、今度、次に破く時、聞いたんです。そしたら今度は構わないと言ったです」 弁護人=「それが十二月頃だと思うんですね」 被告人=「そうです。起訴状を破いたのもその頃です」(続く)