弁護人=「前にもいっぺん聞いたかと思うんですが、判決のある少し前に、私の記憶では二日ほど前だと思うんですが、私が浦和の拘置所へ会いに行ったことを憶えていませんか」 被告人=「ちょっと判らないです」 弁護人=「あなたに会って、我々としては色々やってみたけれども、あなたは今度の判決では死刑になりますよということを、私は言った記憶があるんですがね。あなたはその時やっぱりにこにこしてたんだ」 被告人=「ああ、そうですか」 弁護人=「憶えていませんか」 被告人=「当時、私、弁護士さんを良く思っていなかったから判らなかったです」 弁護人=「僕らの言うことを信用もしてなかったし、気にしなかったんですね」 被告人=「そうです」 弁護人=「控訴したのも、僕らに相談無しにしたんですね」 被告人=「そうです」 弁護人=「相談したのも霜田区長さんということになりますか」 被告人=「はい、そうです」 弁護人=「あなたは、区長なり、いつも顔を合わせる担当の他に、拘置所の人からお前は本当に殺しているのか、いないのか、と尋ねられたことがありますか」 被告人=「あります」 弁護人=「誰からですか」 被告人=「それはちょっと名前は判りませんが、自分が革バンドをかけられた人だから、主任より上の人だと思います」 弁護人=「革バンドをかけられたというのは、何か懲罰でも受けたんですか」 被告人=「そうです。自分が悪くないのを、冬の夜十二時ごろ裸にされたので、蹴っ飛ばしたんです」 弁護人=「同じ房の人から裸にされたのですか」 被告人=「そうじゃないです。その、○○(被害者名)ちゃんを殺してないかとか聞きに来た人です」 裁判長=「誰を蹴飛ばしたのか」 被告人=「主任・・・ちょっと名前は分からないです」 裁判長=「看守の主任ですか」 被告人=「ええ、そうです。それが釘を持ってたって俺に言ったです。で、持ってないと言ったんです。そして、裸にして調べてもらってもいいと言ったんです。そして裸にしてパンツも脱がされたです。それから違う場所へ移されて、そして無いって言ったんです。そして謝ってくれと言ったんです。十二月で寒かったからね。それで謝らなかったから、癪にさわったから蹴飛ばしたんです」 弁護人=「そのことを理由にして懲罰を受けたんですね」 被告人=「そうです」 弁護人=「その、あなたを裸にして釘を捜した人が、あなたに、お前はやってないかと聞いたのですか」 被告人=「そうです」 弁護人=「いつ頃ですか」 被告人=「聞いたのは、接見禁止を解いてからだと思いますから、第一回公判が終えてからだと思います」弁護人=「その時は、もちろん先程言われた裸にされて調べられる前の話ですね」 被告人=「そうです。裸にされたのが十二月二十七日です」 弁護人=「あなたはその時には何と答えたんですか」被告人=「笑ってたです。ご想像に任せますと言ったんです」 弁護人=「それからあと、その人に同じようなことを聞かれたことはないですか」 被告人=「そうです」 (続く)
(写真は“ 劇画 差別が奪った青春・解放出版社”より引用)