弁護人=「浦和の刑務所の中にある拘置所へ行ってからのことを聞きますが、拘置区の霜田という区長を知ってますね」 被告人=「はい、知っています」 弁護人=「その霜田区長から、何かものを書いてある紙を渡されたことがありますか」 被告人=「あります」 弁護人=「いつ頃のことですか」 被告人=「接見禁止の当時ですから八月へ入って直ぐか、七月の末頃だったと思います」 弁護人=「昭和三十八年の七月末か八月に入って直ぐですか」 被告人=「はい。多分八月へ入ってからだと思います。仕事をやはり始めてからですから」 弁護人=「仕事というのは」 被告人=「請願作業です」 弁護人=「実際には何をしていたのですか」 被告人=「袋貼りです」 弁護人=「それは自分の房でやっていたのですか」 被告人=「そうです、八房です」 弁護人=「接見禁止中で袋貼りの作業を始めるようになってから、後のことですか」 被告人=「はい」 弁護人=「渡された紙はどんな紙ですか」 被告人=「わら半紙のような紙で、ボールペンで書いたか、はっきり分かりませんが、崩し書きじゃないことは分かります」 弁護人=「何枚ぐらいですか」 被告人=「三枚ぐらいです」 弁護人=「裏表に書いてあったのですか」 被告人=「そうです」 弁護人=「三枚とも裏表に書いてあったんですか」 被告人=「はい」 弁護人=「多分、ボールペンで書いたものだというんですね」 被告人=「そうです。当時は崩した字かどうか分からないですが、今思えば、崩してない字だと思います」弁護人=「読み易い字ですか」 被告人=「そうです」 弁護人=「大きい字ですか」 被告人=「かなりでかい字です」 弁護人=「どんなことが書いてあったんですか」 被告人=「どんなことと言っても具体的に分かりませんが、印象的なのは自転車を持って行ったとか」 弁護人=「どこへ」 被告人=「内田幸吉さん方へ。それで随分聞かれたので、はっきり憶えています」 弁護人=「前回あなたは、自転車を、内田幸吉の所へ入る前に道のそばに置いて行ったか、あるいは家を尋ねる時に持って行ったかということで、結局どっちになったかは忘れたけれども」 被告人=「随分聞かれたです」 弁護人=「随分聞かれて、怒られたと言いましたね」被告人=「はい」 弁護人=「初めに違ったことを言って怒られて、結局どっちかに落ち着いたんですね」 被告人=「はい」 弁護人=「その紙に書いたものも、結局、落ち着いたほうが書かれたということですか」 被告人=「そうだと思います」 弁護人=「○○(被害者名)ちゃんを捕まえて、どうしたとかいうことはなかったですか」 被告人=「ありました、最初のほうに」 弁護人=「それから、内田幸吉の時のことを憶えているとすれば、当然、脅迫状を届けに行った道筋や何かのことも書いてあったでしょう」 被告人=「ええ、全部書いてあったです」 弁護人=「すると、結局、あなたが自白したことの中身を書いたことになるんですか」 被告人=「それははっきり分かりませんが、ともかく自分で言ったようなことが書いてありました」 弁護人=「警察や、検事の調べの時に言ったようなことがですか」 被告人=「はい」 ・・・ (続く)
(内田幸吉宅を訪ねた者は誰なのか。緊急招集を命じされた捜査員の可能性はないか。謎は残る)