弁護人=「あなたは接見禁止中に、誰か人に会ったことがありますか」 被告人=「はい、あります。原検事さんとも区長室で会いました」 弁護人=「原検事と誰ですか」 被告人=「関さんです。その時じゃありません。一緒に来たこともありますけれども、原検事さんとすもう一人、書く人が来て、石のことを聞いたと思います」 弁護人=「石というのは」 被告人=「佐野屋で石を投げたとか、そのことを聞かれました。その時は区長さんが立会いました」 弁護人=「それは、やっぱり七月か八月の頃ですね」被告人=「八月です」 弁護人=「関さんが来たというのは、一人で来たんですか」 被告人=「そうじゃないです。原検事と一緒にです」弁護人=「それも区長室で会ったのですか」 被告人=「そうです」 弁護人=「それは、別に調べじゃなかったんですか」被告人=「ええ、ただ安否を伺いに来たと思います」弁護人=「一審で死刑の判決を受けましたね」 被告人=「はい」 弁護人=「その判決に対して、控訴するようになったのは、どういう経過からですか」 被告人=「死刑の判決があって、その次の日か知りませんが、いつも運動に出る人と一緒に出たら、或る人が、お前は死刑だぞと言われたんです。だから、そんなことはないって言ったですけれど、同房の人も、その運動に出た人の話を聞いてて、長谷部さんと十年の約束をしてきたことをその人なんかに話したんです。そしたらそんなことないって言われたもので、一応区長さんに聞いてみようと思って、面接つけて聞いてみました。そしたら区長さんは、そんなことない、東京へ行けば大丈夫なんだ、嘆願書を出してやるって、区長さんが言ってくれて、それで、控訴の理由を区長さんが書いて、それを私が写したと思います」 弁護人=「もう三年ほど前になりますかね。この法廷で、どうして嘘の自白をするようになったか、あなたは説明しましたね」 被告人=「はい」 弁護人=「あなたは、一審の判決の時に死刑になるとは思っていなかったわけですか」 被告人=「はい、そうです」 弁護人=「一審判決で死刑だと言われたことは憶えていますね」 被告人=「はい。だから、死刑だと言われても思ってなかったです。そしたら、ちょっと担当さんの名前は忘れましたが、お前は何でもないか頭おかしいだろうと言われたです。だから、自分でも笑っていたので、頭がおかしいという担当さんのほうがおかしいと思いました」 弁護人=「あなたが余りに、にこにこしていたんで、担当さんが怖くはないかという趣旨のことを聞いたわけですか」 被告人=「はい」 ・・・(続く)
(写真は二点とも“ 劇画・差別が奪った青春・解放出版社 ”より引用)