(脅迫状)
(石川被告が書かされた脅迫文)
【狭山事件公判調書第二審3820丁〜】
証人=高村巌
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中田弁護人=「それでは『な』の字を見て頂けますか、22図から24図です。第22図の脅迫状の『な』の字の第一筆の角度がかなりありますね」
(脅迫状の『はなすな=話すな』の『な』の字)
証人=「はい」
中田弁護人=「23図と24図では、特に24図は角度が非常に少ないでしょう。第二筆ですよ」
(石川被告による『な』の字)
証人=「はい」
中田弁護人=「そういうことも計りましたか」
証人=「それは計らなかったんじゃないかと思いますがね、そいつは。あまり、その『な』という字の角度はだいたい傾斜すべきものですからね。これはこの角度は計らなかったと思いますよ。これはさほど特徴にはならないですね」
中田弁護人=「傾斜すべきものだというようなことから決めていかれると、多少困るんじゃないんですか。『な』の字を書く人だって『な』の字を右方に湾曲するような字を書く人だっていっぱいいるんじゃないですか」
証人=「いや、これは『な』という字はこれを真っ直ぐ書いたり右のほうへ曲げて書く人はないんですよ」
中田弁護人=「絶対ありませんか」
証人=「絶対ありませんということじゃないですけれども、まず基準の書き方としましては、小学校で教えている書き方にしましても、手本の書き方にしましても、だいたいそれに習って書きますから」
中田弁護人=「そうすると、あなたの鑑定の、つまり文字形態に関する異同を計る場合には学校で教えてるような形の字というのがやっぱり頭にあるんですな、まず」
証人=「これは文字というものは一つの基本があって、一つの文字を頭の中に形成して、それを書記運動に移すわけですから、こういう『な』という字のような必ず左下のほうへ向かって運筆するという文字は、これは傾斜しているからといって、特徴にはならないわけです。これはこうして検査するのが普通なわけなんですね。ただ、ここに言う一方は曲がっておりますね、24図のほうは反っております。しかし23図、22図のほうは反っておりません。これは確かに問題になるところなんです」
中田弁護人=「だけど、あなたは『よ』の字などについては反ったり左のほうへ、やや湾曲していることをかなり大きな特徴として挙げておられるわけでしょう」
証人=「『よ』の字はこの左のほうへ湾曲すべきものじゃないんです、普通は」
中田弁護人=「だから、湾曲すべきものじゃなくても湾曲しているから特徴が出てくるんであって、『な』という字の第二筆のように、斜めになるべきものだからその斜めになった角度は大して問う必要はないんだという風には言えないんじゃないですか」
証人=「それだから言えないんです。だから問う必要はないんですよ、私の言うのはあまりこれを力を入れて問うというのはおかしいということを言っているわけです」
中田弁護人=「かなり顕著に第二筆の角度が、その人によって違うということが当然あり得るでしょう。ほぼ垂直な角度に書く人もあれば右から左へかなり角度をもって書くということだってあるんじゃありませんか」
証人=「それはあり得ますよ。絶対にないとは私は申しておりません。ただそれはその特徴として、それにあまりこだわり過ぎるということは疑問があるということなんです」
(続く)