アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 99

760丁。問うのは宇津弁護人。証人として出廷したのは、冒頭、「家が前ですから親しくしていました」と述べる、石川被告宅の近所に住む友人、川本証人である。この証人に対する尋問は、その分量が調書において三丁弱(三ページ弱)という僅かなものである。しかしその証言に私は刮目せざるを得なかった。昭和三十八年五月二日、川本証人は石川被告を含む友人四人で映画を観に行ったと証言、自宅から近い狭山劇場に午後一時頃、映画の題名は忘れたが三本だてであった旨、述べた。川本証人は友人の一人と連休中の暇つぶしとして映画鑑賞を思い付き、自宅の庭で犬小屋を作っていた石川被告に声をかけ、昼過ぎ頃に出かけ帰宅したのは夜七時頃、四人共、真っ直ぐ帰宅したと述べる。天候は、帰りに小雨が降っていたという。宇津弁護人はその時の石川被告の振る舞いについて尋ねるが、川本証人は、石川被告は普段と変わりなく冗談など交わしていたと述べる。事件発生の前日、四月三十日においては川本証人が市会議員選挙に石川被告と投票に出向き、この時も石川被告の態度に変わりはなかったと述べる。ちなみに、川本証人は石川佐一郎という、たばこ屋の前の道路上で石川被告と会い、投票場へ向かっている。ここで、宇津弁護人から橋本弁護人に替わり、川本証人が五月一日、二日の行動をしょっちゅう警察から聞かれた事実、また、石川被告が逮捕されるであろうことは事前にわかったか、に対し、「全然わかりませんでした」と答え更に、思いがけないことであったか、との問いに対し川本証人は、「はい」と述べ、尋問を終えた。私は読んでいた公判調書を静かに閉じた。五月の連休、その一日を友人と映画を観て過ごす。その道程では冗談のひとつも出るだろう。極めて自然である。よくある青春の一コマを送っていたその一人が、つまり石川被告が狭山事件の犯人として祭り上げられてゆく理由は、まだ判然としないが、私程度の者から見ても、石川被告は犯人不適合者であると公判調書上から感じ始めた。                          

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(この方は、ただの狭山の黒い猫である)