【狭山事件公判調書第二審3809丁〜】
証人=高村巌
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中田弁護人=「引き続くところで、筆記当時の筆者の心理状態によって筆跡の上に重大な影響を及ぼすということが書いてありますね」
証人=「ええ、あります」
中田弁護人=「そして二〇二〇丁の裏、つまり鑑定結果の最後ですが、"第二〇号証の一の筆勢が比較的渋滞しているのは筆記当時の状況が物理的、心理的に相違していたことに起因するものではないかと考えられる。"こうございますね」
証人=「はい」
中田弁護人=「ここで言う物理的というのは、先ほどから伺っている用紙、用筆の問題などを含むものと思いますし、心理的というのは先に書かれているその時の筆記当時の心理状態を述べておられるのだと思うのですが、この物理的、心理的に相違していたことが何に基づくものかについては、どうお考えになったんでしょうか」
証人=「それは分かりません。私はこれは物理的心理的に起因するものであるということは言っていないわけです。ではないかと思うという、私の主観的意見をここに書いただけで、具体的に私がこうだということを決めつけているわけではございません」
中田弁護人=「そうすると、それはここで問題になっているのは第二〇号証の一、つまり中田江さく宛の手紙なのですがね、この文書自体から物理的心理的に何かの原因があったんだというようなことが導かれるということになるのでしょうか、それとも、他の被検文書との関係においてのみ、そう言えるということでしょうか」
証人=「いや、これはですね、この文書について私は言っておるわけです」
中田弁護人=「他の二つの文書と関係なくですね」
証人=「関係なく言っておるんです」
中田弁護人=「そうしますと、物理的にと言われる場合にはこの手紙の用紙、まあ便箋ではないかと思いますが、この便箋がどういう性質のものであるかといったようなことを問題にしておられるわけでしょう」
証人=「いや、物理的と申しますのはそれはもう一つの問題はですね、それは用紙だとか、それからそのペンだとかいう問題もございますけれども、そのほかにその書く位置ですとか、それから書く姿勢だとか、あるいはたとえば、立って書いたとか座って書いたとか、たとえば、こういう台で書く時には立って書かなければなりませんね、で、椅子に座って書いたとか、あるいは畳の上に座って書いたとか、椅子に腰掛けないで、あるいは寝ていて書いたとか、そういった場合を私は言っているわけです」
中田弁護人=「そういったことをも含めてね」
証人=「はい」
中田弁護人=「結局のところは、なぜ渋滞しているのかはよく分からんが、渋滞していることだけは認められると、こういうことになりますね」
証人=「そういうことです」
中田弁護人=「あなたが実際に鑑定なさる時、この鑑定では三ヶ月近くかかっているわけですけれども、最初は被検文書の一つ一つをやっぱり全体として比較しながら見られるわけですか」
証人=「一度、総括的にその文書を単独に見ていきまして、その中に不自然なところはないか、あるいは渋滞しているところがないか、これは比較的に見たんではいけないんです。単独に見ていくんです。そしてその中の特徴を捕まえていきまして、そしてその特徴が合うか合わないかを検査するのであって、普通の素人の鑑定をやる人は比較してしまって、似ているところだけを合わしていくとか、違うところだけを合わしていくとかいうことだけをやると間違えてしまいます。ですから単独に全然別個の面ですね、を、見ていかないといけないわけです」
中田弁護人=「そうすると、一つ一つの文書、この場合は三つあるわけだけども、まず一つについてその全体を眺め、その特徴をみて配字構成なり、字句構成なりも見て、さらには偏、旁に分けて一本の線に及ぶという分析をやっちゃうわけですか」
証人=「いや、一番最初は一本の線の分析まではやりません。ただ不自然なところがないか、あるいは渋滞しているところがないかですね、どういう特徴があるかというところを見ていくわけです」
(続く)