アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 1230

狭山事件公判調書第二審3801丁〜】

                      「第六十七回公判調書(供述)」

証人=新井千吉(五十八才・農業)

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山梨検事=「先ほど弁護人があるいは尋ねたかも知れませんが、その農道辺りの土の質、これは上土があって、下に赤土がある土地のようですね」

証人=「はい」

山梨検事=「埋めてあった場所、あそこらの農道辺りは、いわゆる上土は」

証人=「埋めたところは上の畑と下の畑との境で、下の畑であれば黒土が深いんです。ところが、境ですから上の畑の層にぶっつけば上土は少ないし、もし下の層ならば一メートルもそれ以上も深く掘れるんで、あそこは下の畑の層じゃないかと思います。いい土が、黒土が多い部分なほうだと」

山梨検事=「どれくらい差があるんですか」

証人=「下の畑のほうは一メートル以上。四尺くらい牛蒡を掘っても下まで黒土ですから。あそこの農道は境ですから上の浅い層と深いところの境ですから、七分通り深いほうにくっついていると思います」

山梨検事=「そうすると、大体の地勢をいうと、上土がせいぜいあって一尺くらいのところと、それから、三尺から一メートル以上のところとあったわけですね、四尺くらいの」

証人=「ええ、ですからあそこはいいところの場所かも知れません」

山梨検事=「ちょうどその境目くらい」

証人=「ええ、どっちにしてもいい土が多いところです、あそこは」

山梨検事=「その下はどうです」

証人=「あそこは電柱を、いくら掘っても赤土は出ないという話でしたから」

山梨検事=「一般的なあなたの畑の状況ですが、その土の下は」

証人=「あとから買ったほうは、この下は、山の黒土の下は、山の泥土と言いますか、非常に粘るようなおかしな泥が出てくるんです。場所によって違いますけれども、重たい泥が」

山梨検事=「芋穴の下の底の土はどっちですか」

証人=「あそこは上の層の土で、芋穴を掘るのに非常に赤土でさくさくして軽い赤土ですから、穴倉を掘りよかった場所ですね」

山梨検事=「いい土ではない場所」

証人=「ええ、あそこは地盤が上のほうですから」

山梨検事=「そうすると先ほどの、石などがたくさん出たというのはどっちですか」

証人=「下のほうですけれども」

山梨検事=「下のほうの土なんですか。強い土なんですか」

証人=「ええ、強い土のほうなんですね。石が出たと言いますけれども、昔からよく畑を耕したところにはないんですけれども、まあその土地は、売るくらいの地主ですから、構わなかったから石があったんですね。まあ荒れていたわけですから、ねぇ、あったわけです」

山梨検事=「しかし、その地主もかつては精出したこともあったんじゃないんですか」

証人=「地主といっても小作に出しておったわけですね、貸していたわけですね」

山梨検事=「その土地の歴史なんですが、開墾したようなところなんです」

証人=「今でもたまに篠が生えてますから、その当時は非常に篠が生えてました」

山梨検事=「もとはそこは何だった」

証人=「もとから畑でしょうね」

山梨検事=「山を崩したというようなところではないと」

証人=「もとから畑ですね」

山梨検事=「桑の木に縄をかけてあなたが芋穴の底に降りたことがあるという話なんですが、まあ、その日に降りたかどうかはっきりした記憶はないようだけれども」

証人=「ええ、それはねえ、おかしな話ですけれども、精進揚げ(注:1)でもする時、二、三本欲しいでしょう。その時に取りに行ったというわけです」

山梨検事=「あなたちょっと耳が遠いんですか」

証人=「ええ」

山梨検事=「何回くらいあなたが一人で行って桑の木に縄を付けて上がったり降りたりしたことはある」

証人=「それは一度か二度ですよ。精進揚げに二、三本欲しい時に、リヤカーの綱を使って上げたというだけでそんなに幾度もは、骨折れることですから」

山梨検事=「下にガスが溜まっていることがあるので降りなかったというようなことは」

証人=「いや、そういうことはないんです。ちゃんとコンクリートの蓋には穴が二つありますから」

山梨検事=「桑の木は切り倒したんですか」

証人=「ええ、やっぱり切り倒したんですね」

山梨検事=「いつ切ったんです」

証人=「いつと言われても」

山梨検事=「事件直後」

証人=「少々経ってからですね」

山梨検事=「切った理由が何かあるんですか」

証人=「まあ、だって、下に、人を下げたという噂ですから、どうも縁起が悪いということで、切ったほうがいいんじゃないかと思ったわけで、切ったわけなんです」

山梨検事=「なぜ切ったかって、あとで警察から怒られたですか」

証人=「怒られません」

山梨検事=「切った枝の残りはどうしてあった」

証人=「燃してしまいました」

(続く)

○注:1「精進揚げ」=揚げ物の一種で、野菜を揚げたものをいう。仏道を究めることに精進ということばが多く使われ、素食(そじき)(植物性の料理)を精進料理といい、精進揚げはその一部である。

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○証人は農業を生業(なりわい)としているだけに、土の質についてこだわりがあるようである。老生は狭山事件を知ったあと、数え切れぬほど狭山現地を訪れ観察を繰り返してきたが、上赤坂や堀兼、加佐志あたりで目の当たりにするのはその手入れの行き届いた畑地帯であった。

(写真は加佐志付近の農地)

   狭山事件に興味を持ち、とりあえず狭山の郊外へ赴くも、こういった場所に到着しても何ら事件に結び付くものはなく、一見無駄な行動に思えるかも知れないけれども、この一帯を埋め尽くす肥沃な土地、いや土質と言えば良いのか、どんな作物を植えても期待以上の収穫が得られそうな健康的な農地を見、なぜか満足し帰路に着くことがあった。ゆえにちょっとだけ証人の気持ちが理解できた。