【公判調書3019丁〜】
「第五十六回公判調書(供述)」
証人=遠藤 三(かつ)・七十歳
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宇津弁護人=「今の点ですが、死体が発見されたあとで、まだ石川君がいわゆる自白というのをしない間にも、死体が出てきたあたりに関するいろいろな雑談とか、いろいろな話合いは行なわれておったんですか、つまり石川君と取調べの皆さんとの間には」
証人=「取調べする人というよりも、むしろ捜査会議は大体ほとんど毎晩のようにあったんじゃなかったかと思います」
宇津弁護人=「私が聞いてるのは死体が発見された時から、石川君がいわゆる自白をするまでの間に、取調官と石川君の間に、死体がここから出たよとか、それから、その辺りには芋穴みたいなのがあるんだ、というような話題が取調べという格式ばったことでなくても、雑談形式でもそういう話が出た、そういう話が交わされたことはあるんですか、ということです」
証人=「ありません」
宇津弁護人=「そうすると石川君の自白がある時期以前に死体が出てきたことについての話題は雑談の中でもしなかったというんですか」
証人=「雑談の中にはないことはないですが、石川君を交えての雑談にはございません。これは捜査官の間には捜査会議があるんですから、いろいろ話があります。一人説、二人説三人説もありますが、その会議の中心人物がまとめていくわけですから、しかし今、申し上げたようなわけで、石川君を交えての雑談の中ではそういう何はないです。また、あるべきはずがないですよ」
宇津弁護人=「あなたは取調官として、石川君との間にいろいろな雑談を交わしたことはないんだということも言いたいんですか」
証人=「そんなことはありませんよ、石川君と雑談を交わさなかったというようなことはないです。雑談はありますよ」
宇津弁護人=「石川君から自白調書を取った時期はいつかは別として、その前の段階であなた方がこのいわゆる善枝さん殺しについて、いろいろな話を石川君と交わしたということはないんですか」
証人=「何ですか」
宇津弁護人=「石川君から自白をとる前の段階で、この善枝さん殺し事件に関して死体のことでもゴムひものことでも、何のことでもいいんですが、死体のこととか、物が出てきたという話とか、そういうような話題を交わすということがありましたか、なかったですか」
証人=「分室に行ってからは別ですけれども、分室の前はございません」
宇津弁護人=「分室に行ってからのち、まだきちんと自白調書が取られる前の段階で、今、私が聞いたような話題をいろいろ交わしたということがあるんですか」
証人=「死体が発見された、されないの話ですか」
宇津弁護人=「それも含めて、ゴムひもの話とか」
証人=「分室に行った後においてはあるいはあるかも知れませんよ、でも分室前はございませんけれども、分室に行ってからはあるいはあったかも知れませんよ」
宇津弁護人=「それから、同じく自白調書がきちんと取られる前の段階で、石川君はあなた方の求めに応じて狭山の市内のあちらこちらの地図というか、道順というか、そういうものを書いたことがあるんですか」
証人=「書いておりますね」
宇津弁護人=「そういう地図を書く場合には、何かその地図に関連した話題の中で、じゃそれを書いてみてくれんかということで、結局、まあ、書いたということになるんでしょうか」
証人=「そういうことですね」
宇津弁護人=「今、私の聞いた図面というのは、地図というか、そういうものは、別に、供述調書に添付する目的の図面ではないわけでしょう」
証人=「供述調書に添付する図面以外」
宇津弁護人=「ではないのかという質問です」
証人=「あるいは供述調書に添付する以外の図面もあったかも知れませんが、大体が供述調書に添付する図面です。それは、中には狭山の現在図というようなものも、簡単につるつると書いてくれたので綴らんのもあったかも知れませんが、大体は供述調書に基づいての図面です」
(続く)
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埼玉県狭山市入間川。西武線"狭山市駅"に近い第二ガード付近から東の方角を見渡す。事件は写真奥に見える森の向こう側で発生している。
写真は、狭山市立中央中学校周辺の風景であり、昭和の香りを色濃く残すこの辺りを私はよく訪れる。昭和の香りとはやや抽象的な表現であり、その捉え方も人それぞれ、十人十色、千差万別となろう。私の場合、狭山市内において昭和的だなと感ずる媒体は写真のような光景である。遠い昔からありそうな、森とまではいかぬが雑木林が生え、周辺を畑が埋めつくす様はなぜか少年時代の記憶を呼び覚ます。これは同じ市内にある上赤坂地区にも言えることであるが、現地を実際に訪れるとその遠い昔からの変わらぬ(と思われる)風景が実に魅力的なのである。
こちらは昭和三十九年十一月二十八日付第一回検証調書添付写真。犯行現場側から現・中学校方面を撮影している。やはり、当時からこの森は存在していたことが確認できるのであった。