『原文を読みやすくするために、句読点をつけたり、漢字にルビをふったり、中見出しを入れたり、漢字を仮名書きにしたり、行をかえたり、該当する図面や写真を添付した箇所があるが、中身は正確である』
(事件当時の新聞記事。写真は"無実の獄25年・狭山事件写真集=部落解放同盟中央本部中央狭山闘争本部・編、解放出版社"より引用)
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【公判調書3286丁〜】(昭和四十七年六月十五日)
「第六十一回公判調書(供述)」
証人=中田直人(四十一歳・弁護士)
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橋本弁護人=「適正な捜査が行なわれるように配慮した、また要請したと、こういうことですね」
証人=「はい」
橋本弁護人=「具体的に何か、処置を取っておりますか」
証人=「はい、私が選任された当座でもすでに別件逮捕であることをうかがわせるような新聞記事がたくさんありましたし、それからポリグラフにかけられているという事実をも知りましたので、五月三十一日に浦和地方検察庁へ行きまして当時の鈴木重一次席検事に会いました。この逮捕勾留自体がいわゆる別件逮捕として違法であるということを伝えると共に、ポリグラフが被告人に対しては自白強要の手段として用いられているということを話しました。そして、それらを改めるように伝えました。それから六月七日の接見の時だと思うのですが、六月の初めに石川くんが、弁護士さんに会ったということを私どもに言いました。私と橋本さん以外の弁護士さんに会った、四十才ぐらいで眼鏡をかけた丸顔と言ったでしょうか、そして、本当のことを言ってくれとか、しょうじさんという人を知ってるだろうから、捜せというようなことをその弁護士と称する人に言われたということを言いました。それでその接見後直ちに狭山署の竹内署長に面会を求めたのですが、竹内署長は、どうしても会いませんでした。で、正確に誰と会ったか記憶ありませんが、たぶん諏訪部捜査課長だったと思いますが、被疑者の石川くんはこういうことを言ってるけれども、そういう事実はあるのか、ということを尋ねましたけれども、それについては、のらりくらりしたところで、はっきりした返事は得られませんでした。私どもは、石川くんに対してそのような事実があったに違いないから、十分調査するように、そしてまた、そのようなことを再び行なうべきではないということをその際申し述べましたし、また、別の機会に、検察庁と、それから埼玉県警本部へ行ったこともあるのですけれども、それらについても抗議をしたと思います」
橋本弁護人=「私の手元にある書類では六月十一日付で検察庁、それから県警本部などに適正な捜査をされたいという意味の要請書を発しておるのですが、そうですか」
証人=「はい」
橋本弁護人=「それは間違いありませんか」
証人=「はい」
橋本弁護人=「適正な捜査をされていないという感は、先ほど、一つは被疑事実にないところの善枝さん殺しの捜査をしておる疑いがあるということが一つ出されましたが、もう一つ、偽弁護士という話が出されましたが、それ以外にもございましたか」
証人=「先ほど申しましたポリグラフのことも私、違法だと考えていました。勾留中の被疑者、被告人だとしても身体検査令状を要するものと私は理解しておりましたし、そのほか取調べ自体が石川くんの言うところによると大変夜遅くなったり、殺したろうとか、お前なんか、殺して埋めておいてもわからないとか、それから何か、しきりに毎日おばけの話をされるんだというようなことを言って非常に怖がっていたようでしたので、取調べにも違法があると考えておりました」
橋本弁護人=「それから被疑事実について、いずれ起訴されるであろうという見通しは持っておりましたか」
証人=「被疑事実について、恐喝未遂について起訴されるかどうかは、非常に大きな関心事ではありました。しかし、石川くんを通してしか、私どもは、その当時直接的な事実に関する知識を得られないわけですけれども、私は、大変難しいという風に考えておりました。しかし、他の事案については、当然起訴があるだろうと思いました。ちょっと付け加えてよろしいでしょうか、その違法な取調べということについてですが、もう一つ、私どもの接見の模様は警察側によって盗聴されていたと私は考えています。それは接見室の隣に何か、部屋があったのでしょうか、いつも人の気配を感じてましたし、それから、石川くんの口から、先生方に会った時の話が、あとで取調官からよく出てくる、非常によく知っているというようなことを言われたこともありますので、弁護人、被疑者の接見が、そういう形で、警察による盗聴ということで侵されているものと私は考えていました」
橋本弁護人=「それは狭山警察に留置されている時代ですか」
証人=「そうです」
橋本弁護人=「川越署に移されて後(のち)は、今の盗聴の点はどうでしょうか」
証人=「それはわかりません。と申しますのは、川越署の分室の接見室は、何か普通の大きな部屋の一部を仕切った急ごしらえの接見室でして、その私どもが接見してるすぐ近くに人がいる気配としては感ぜられませんでした。しかし、いくつかの事件の経験から言いまして、盗聴がなかったとは言い切れません」
(続く)