【狭山事件公判調書第二審3731丁〜】
三、鑑定結果
別紙添付の学籍簿成績表を参考にして判断した結果、上記の鑑定事項から本件脅迫状本文は、小学校五年修了程度の学力、能力を有する者の記述したものとは考えられない。
(成績表)
四、鑑定結果に至る判断
○文章表現に、縦書き表現を取るか横書き表現を取り得るかは、筆者が、平素どちらの表現を多く取っているによることが大きな要因となる。
特に、用件を述べる通信文にあたっては、縦書きが当時の常識であり、横書きを用いる為には、日常、横書きに慣れている者でなければならない。
本件文書の筆勢は速書きができる者であることを示している。機械的な練習や視写ではなく、自己の意識表現を内容とした文章を速書きし、しかも訂正箇所がほとんどないことからも、筆者の書写能力の高さが察しられる。
さらに、段落の区切りを考えていること、要件となる部分については文字を大きくし、また、繰り返しの手法を用いていること、文型の確かなこと・・・からも、このことが考えられる。
また、漢字の誤用についても、使用の文字の傾向から考えて、その漢字の意味を(用法も含め)知らないことによる誤用というよりも、むしろ意図的に当て字を使用していると考えられる。このことは、平仮名表記と分かっている文字に漢字を当てていることからも考えられる。
句読点についても、速書きの文章にこれを正しく打てることは、筆者の文意識がうかがわれるのである。
昭和四十七年七月十八日
*
○まるで被告人は無罪だと、この裁判の判決にとどめを刺しかねない磨野久一の鑑定結果であり、これに勝るものはない。また検察側にとっては決定的な打撃を受け敗北しそのまま奈落の底へ沈む様が見え、それほどまでに説得力に満ちた鑑定結果であったが、裁判官判事はこれを「否」と判断したのである。
この磨野鑑定を読み、老生は納得も得心もし、この事件はやはり冤罪であるなと考えたが、しかし判決は「被告人を無期懲役に処する」という結果になっている。ということはこの磨野鑑定に納得した老生の思考は間違いだったのかと焦るが、そんなことはない。
もう一度資料と鑑定結果を見直せばそれは明らかだ。
(上の写真二点は石川一雄被告が書いたもの。下の脅迫状も被告が書いたものとされているが・・・)
(続く)