【公判調書3159丁〜】
「第五十九回公判調書(供述)」(昭和四十七年四月)
証人=上野正吉(六十四歳・東邦大学医学部教授)
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城口弁護人=「次に移ります。先ほど鑑定書の十八ページのところで、強いて考えれば三度目の複写で片面カーボンを用いたためという考え方も成り立つが、という点について、極めて判断が難しいような印象を受けたのですが、現在もそのお考えは変わりませんね。強いてと言えば平たく考えると、というのと違うことですね」
証人=「素直に考えればということじゃなく、強いてですから」
城口弁護人=「無理に考えると、ということですね」
証人=「そうです」
城口弁護人=「すると、先ほど裁判長から質問があったように、本件においては被告人以外の者が骨筆のたぐいで、筆圧痕を作りその後に、被告人をしてその跡を辿らせるというやり方もまた考えられる、そしてこの点について十九ページの最初に、『後段の疑いを濃厚にさせる』と、こう書いておるわけですが、その点を指摘したいと思います。
次に鑑定書第三節、記録二〇五〇丁の図面についてお聞きします。鑑定書二十ページの八、のところに『裏面の上半に本資料と同じ場面を示す図が、しかしやや幼稚な手法で鉛筆書きされてある、これに対し、本資料にみる山と道路の配置は、裏面に画いたものと比較的にならぬほど精巧であり、これが同一人の手になるとは思えぬ程度である』とありますね」
証人=「これは、比較的の『的』はいりません。これは、比較でいいです、直して下さい」
城口弁護人=「この幼稚な手法という点ですが、これはどういう点に見るわけですか。そういう印象を受けたところを簡単に述べていただけば結構です」
証人=「鉛筆書きを見ますと、表(おもて)面に書いてある図と同じ地形を書いたということが大体分かるわけです。道路、T字路、丘みたいな線ですね、大体これは同じものを書いてある、表(おもて)面の図とですね。ところが、この精巧さにおいて格段の差です、これは」
城口弁護人=「精巧さの点にということですね」
証人=「はい。ですから表ははっきりと書いてありますが、裏は非常に幼稚です。書く必要のないものが書いてあるわけです。記録の二〇五〇丁の表の緑の枠の左上付近の変型T字路と、裏の上部中央付近の鉛筆書きの変型T字路を比較してですね、T字路だけじゃなく、その他の山らしい丘も、ここに輪廓が書いてあります、これも含めての話です」
城口弁護人=「次に、同図面の表(おもて)面を見て下さい、『この辺で自転車を俺が持つと受け取った』と書かれているT字路の両端、及び緑の線で囲われたところの四つ辻、及び下方のT字路ですね、その他の道路の交差部分のところに何か特徴が見えますか」
証人=「これは鑑定書に書いてあったと思いますが」
城口弁護人=「この部分じゃなく、あとの部分です」
証人=「これは鉛筆の跡のように見えますが、色素がちょっと違います。カーボン色素の色です。これは特徴があるもので多分書いたと思いますが」
城口弁護人=「私、なかったように思うんですが、ここに、特に角々に鉛筆書きと違うもの、または鉛筆書きであれば二重になっているというか、そういう部分がございますね」
証人=「あります」
城口弁護人=「それと何か、図面が極めて精巧であるという点と、この点について指摘してなかったでしょう」
証人=「どこかに指摘したかと思いますが」
城口弁護人=「道路の交差部分の両端に特徴のある記載があるということは、間違いないですね」
証人=「これは第十項にやはり書いてあります、鑑定書の二十一ページの終わりから六行目辺りからあります。『・・・この色素は、しかし鉛筆の黒鉛色素ではなく、黒色ボールペンの色素の如くであり・・・』なぞる時に、筆圧痕を作る時に、これは使い古しのボールペンですが、所々曲がるところなんかに、色素がまた出てくる所があって、そのためだと思います」
城口弁護人=「この図面では極めてはっきり・・・」
証人=「意味ありげに写っていますが、これは恐らく筆圧痕を作るために、そこが、また、使い古しのボールペンが、時々インクが出たり出なかったりそのためだと思います」
城口弁護人=「ちょっと角だけがどの部分も、しっかりと出ているように思われるんですが」
証人=「角だけ○○(印字不鮮明・注:1)ってもおかしくないんですよ、それは、角だけでもないですね、所々ありますね、下側の縦長の溝の中の直接の部分」
城口弁護人=「たとえば、『この辺で自転車云々』と書いてあるT字路のところを見ていただきますと、特にその右側の黒く印されている部分と、延長上に筆圧痕があるんだとか、それと一致してるんだというような関係はいかがですか。ここだけぴたっと書いたものか、途中で強くなったため書いたものか」
証人=「これは筆圧痕のほうですね、細い線は細い線であるんです。そのほか、筆圧痕による跡が出てますね。だから、これは筆圧痕のボールペン跡だという考え方が正しいと思いますけれども」
(続く)
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下は(注:1)印字不鮮明と表記した証拠写真。