アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 1011

【公判調書3161丁〜】

        「第五十九回公判調書(供述)」(昭和四十七年四月)

証人=上野正吉(六十四歳・東邦大学医学部教授)

                                            *

城口弁護人=「次に鑑定書第十五節、記録二一一四丁の図面についてですが、この図面の上側のT字路部分及び四つ角部分ですね、それの交差する角の内側にも、特に強く印された部分があるとみえるんですが、いかがですか。T字路のほう、ここを顕微鏡で確かめたということですね」

(二一一四丁)

証人=「もちろん、全部、顕微鏡で見てます」

城口弁護人=「それで、鉛筆痕であるとご証言なさいましたね」

証人=「はい」

城口弁護人=「で、この『こをばん』、『しょぼうこや』と書いてある近くの、角の部分ですが、強く記されているように見えますね」

証人=「角の部分の鉛筆が特に強いということですね。特に強くということは鉛筆が特に強く出ておるというぐらいのことですね」

城口弁護人=「次に記録二一五〇丁の図面に関してお尋ねします。鑑定書四十四ページに、『図は簡単なものではあるが、鉛筆跡は自信を持って一つの画き直しもなく画かれてある。この図が第四号、第六号、第七号、第八号、第九号等の稚拙な図を書いた者と同一人の手になるものとは到底思えぬ程度の精巧さである』と書かれてますね」

証人=「ええ」

城口弁護人=「そして、四十五ページの五行目辺りから、『日付と姓名の字は薄く鉛筆に力を加えないで書かれてあり、この分には、それに沿う筆圧痕は認められない』と書いてありますね。その点なんですが、そのことから図面の作成者と姓名の作成者が同一人ではないのではないかという疑いはお持ちになりませんでしたか」

証人=「持ちませんでした、あのね、持ちませんでしたと言ったけれども到底思えぬほどの精巧さであるということで、それは暗になんか、そういう出来上がるまでの経過にあると」

城口弁護人=「疑問を持ったということですね」

証人=「そうです」

城口弁護人=「ほかの部分で、署名と図面との疑問を提起したところがございましたね」

証人=「そういうことは私、書いた覚えがありません」

城口弁護人=「じゃ、これは、あとでまた必要によって質問させていただきます。それから二一一四丁または今の二一五〇丁の図面について、図面の書き方が自信に充ちているという珍しい表現をしてるわけですが、こういう表現をするに至った、いわば理由と申しますか、そういったものについては、それなりの説明をなされておるわけですが、他の、それ以外の十三枚の図面との関係で、この点に、たとえば、鉛筆跡が太くとか、二本線がはっきりと、道路の線が書かれているとか、書き直しもないというような点を理由に挙げてますが、ほかの図面と比較して、これが顕著であるということですか」

証人=「顕著であるのは、二一五〇丁だけでなく、ほかの、前の図でも、非常に精巧なものがありましたね、これだけじゃありませんね」

城口弁護人=「最後に一点、二一五〇丁についての鑑定書四十四ページの記載ですが、四号、六号、七号、八号、九号などの稚拙な図を書いた者と同一人の手になるものとは、到底思えぬ程度の精巧さであると、この点については現在もお変わりないということになりますか」

証人=「その通りです」

                                            * 

中田弁護人=「一般的なことを一つ伺います、先ほどから伺っていますように、たとえば、大変きれいな平行線で写し出された筆圧痕があるとか、それから、部分的には筆圧痕があるのに、裏面にカーボンの跡が見られないとか、それから、大変幼稚な手法もあれば、力強い精巧な図面もあるとか、いろいろな点を先生は指摘なさったわけでございますけれども、全般的に、鑑定を通してのお感じで、それらの図面が同じような状況のもとで作成されたものである、という風にはお考えになられなかったでしょう」

証人=「あなたの質問で三つの点を挙げられましたけれども、みんなそれは、根拠が別々ですね。一番最初の、非常に奇妙な、未だに私にもわからない二本の平行したカーボン紙の跡があるということ。その理由は私はわかりません。それから二番目は」

中田弁護人=「筆圧痕が、表にはあるけれども、裏にはカーボンがない」

証人=「それはまた別な説明が付くわけで、それらを総括して全体としてこうこうという理由にはちょっとならないと思いますけれども」

中田弁護人=「ですからね、それぞれに作成された経過なんかは、いろいろあったろうと思うから、鑑定の対象とされた各図面が同じような状況下で作成されたという結論は到底出ないでしょうという質問なんです」

証人=「いろいろな作り方があったということは言えますね」

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山梨検事=「今の図面は鉛筆書きの図面でしょうか、鑑定の、カーボン紙の図面でしょうか」

                                            *

中田弁護人=「図面すべてです、裏面を含めてのことは当然でしょう、私の質問から」

証人=「或るものは、両面カーボンを使ってる、それは少ないです、あとは両面カーボンを使わずに、複写をとったならば片面でしょうということです」

中田弁護人=「私の伺いたいのは、ただ一点です。鑑定の対象とされた図面については、たとえば、精巧なものもあれば幼稚な手法もあるということは指摘しておられるし、今、例に挙げた二つの問題などから見ても同じような状況で作成された図面だとは、到底言えないだろうと、ただその一点だけを確かめたわけですが」

証人=「はい、そうです」

中田弁護人=「そういう点では、先生は、具体的にこのカーボンの跡がどうなって出来たんだろうと推測することも、困難な点もあったわけですね」

証人=「それはまず第一に骨筆であったか、ボールペンであったかさえも非常に難しいわけです。で、ボールペンとしても、コバルト色を使うボールペンも確かにあったし、黒色のボールペンを使った跡もあります。ところが一枚の紙で、或るところはコバルト色のボールペンの古いのを使う、或るところは黒色のボールペンを使うと、同じ紙に違ったものが使われているんです、そういうものもあるんです。だから、非常にこれは複雑であるという感じを受けました」

中田弁護人=「ただ、鑑定全体、鑑定書を作成されるにあたっては、そういう複雑な問題、あるいは合理的な疑問として指摘された問題がいくつかあるにせよ、先生とすれば鑑定事項に忠実に、これを作成したのだと、こういうことになるんですね」

証人=「そうです」

(続く)