(狭山事件裁判資料より)
【公判調書2133丁〜】
「第四十三回公判調書(供述)」⑥
証人=中 勲(五十七歳)
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主任弁護人=「この前、奥富玄二という人のことについて証言しましたね」
証人=「はい」
主任弁護人=「あなたとしては一生懸命調べたがその結果、関係がないという結論に達したということでしたね」
証人=「そうです」
主任弁護人=「自殺した奥富玄二さんの死体を検視したのは誰か覚えていますか」
証人=「覚えていません。調査官が長谷部警視ですから検視をすれば長谷部警視の担当にはなりますが、誰がしたか覚えていません」
主任弁護人=「長谷部さんの証言によると自分がしたというようにちょっと読めるのですが、刑事調査官というのは最少限度一人しかいないのでしょう」
証人=「はい。あれを当時検視官と言いまして、専ら自他殺不明の死体の検視とか法医に関連するような仕事を担当しており、長谷部警視が行なっておりましたから、やれば長谷部警視が担当すると思いますが、行政検視ですから調書は所轄警察署の署員が作ったという形になっているのではないかと思います」
主任弁護人=「検視官の役割ですが、自他殺不明の死体などを検視し、それに対して一定の結論を出さなければいけないわけでしょう」
証人=「死体については専門家ではありませんから医者の判断によるわけですが、一応結論のようなものは出すわけです」
主任弁護人=「そのへんの結論を出すために必要な捜査はするわけですね」
証人=「はい」
主任弁護人=「それは検視官、刑事調査官の当然の任務でしょう」
証人=「そういうことになります。ただ、この場合はたまたま特捜本部が付近に出来ていましたし、事件との関連性が疑われましたからやりますけれども、普通農薬を飲んで井戸に入ったという場合は検視官はやりませんで、所轄の警察署で処理します」
主任弁護人=「長谷部さんは、奥富玄二という人がこの件に関係があるかないか全く調査しなかったと言っているが、今から見て、そういうことがあり得ると思いますか」
証人=「調査官、検視官というのは、自殺か他殺か自他殺不明か、自他殺不明なら検事の検視を受けなければなりませんし、そういうことの決定が中心になってきます。したがって彼が本件の被疑者であるかどうかというような捜査は一応私の方、言い換えれば将田警視のところに来て、将田警視が身辺その他の捜査を命ずる、という形になると思います」
主任弁護人=「あなたは前回もその関係を聞かれたとき、長谷部警視はあるいはその関係の捜査をしていないかも分からないと言って・・・」
証人=「あれは取消させてもらいます。あれは早い時点で、のちに至って長谷部警視が窃盗を中心に取調べたということになるのですが、この前はそれと混同したように思います」
主任弁護人=「私が今聞こうとしたのは、窃盗の関係の捜査を命じていたからやらなかっただろうという風に聞こえたので、そういうことがあり得るのかと思ったからなのですが、このへんは訂正するわけですか」
証人=「はい。帰って検討したら、奥富さんが亡くなったのは五月六日でしたね、あの時点ではまだ本格的に窃盗の捜査には入っていませんでした」
主任弁護人=「あなたはこの前の証言後、帰って検討するだけの材料を持っていたわけですね」
証人=「材料と言っても頭の整理です」
主任弁護人=「当時の記録や何かをあなた自身現在持っていないのですか」
証人=「持っていません。全部コピーして持っていましたが、浦和の署長を辞め、引越しのときに全部整理してしまって何もありません」
主任弁護人=「あなたは現在、埼玉県の消防の関係の仕事をしているのですね」
証人=「はい。消防防災です」
主任弁護人=「埼玉県警も同じ場所にあるでしょう」
証人=「建物は一緒です」
主任弁護人=「当時の狭山署長の竹内さんも同じ建物のところに勤めているのですか」
証人=「違います。大宮です」
主任弁護人=「前回の証言の後、竹内さんに会ったことがありますか」
証人=「ありません。彼が辞めてから全然会っていません」
(続く)