【公判調書2013丁〜】
「第四十一回公判調書(供述)」④
証人=竹内武雄(五十六歳・埼玉県交通教育協会評議員。事件当時、狭山警察署長)
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宇津弁護人=「ところで話変わりますが、本件の問題の脅迫状というものを証人は手にとって御覧になったことありますね」
証人=「見ております」
宇津弁護人=「初期の段階だと思いますが」
証人=「ええ」
宇津弁護人=「もちろん封筒も御覧になってますね。脅迫状が入っていた封筒も」
証人=「ええ、見ております」
宇津弁護人=「あの封筒には"中田江さく様"という文字があるわけですがね、そのほかに"少時様"と書いて消してあるような部分もありましたね」
証人=「ええ、あったですね」
宇津弁護人=「今、記憶ありますね」
証人=「ありますね」
宇津弁護人=「どういう字を書くショウジかも記憶ございますか」
証人=「ちょっと記憶ないですね」
宇津弁護人=「記憶喚起のために申し上げますが"少ない時"と書くのじゃありませんか」
証人=「記憶ないですね。大正の正じゃないですかね、ちょっと記憶ありません、消したことがあることは知っています」
宇津弁護人=「(記録第三冊九一六丁裏の写真を示す)これは脅迫状の入っていたという封筒ですが、"中田江さく"の上に"少時様"と書いて消してあるんですが」
証人=「これは表ですか」
宇津弁護人=「表と思われますね」
証人=「(うなずく)」
宇津弁護人=「写真で記憶喚起できますか」
証人=「見せられると記憶はいくらか出てきますがね」
宇津弁護人=「記録によりますと、五月二日の日に狭山署長であるあなたの名義で脅迫状の指紋検出依頼が行なわれているようですが、そういう手続をされたことは記憶ありますね」
証人=「あります」
宇津弁護人=「それから脅迫状及び封筒の筆跡鑑定の依頼も証人の名で出しているということも記憶ありますね」
証人=「はい、あります」
宇津弁護人=「いつ頃鑑定依頼に出したか記憶ありますか」
証人=「それは憶えてません、今」
宇津弁護人=「指紋検出のかなり後になりますね」
証人=「憶えてません。分担でやっておりましたから、名前は全部私の名前でやってますが、全部作業別にやってますから具体的なことは憶えてません」
宇津弁護人=「ところで、捜査本部では中田江さくという以外にですね、少時様と読める字が書かれていたということはかなり重要視された時期があったと思いますがね、その通りでしょうか」
証人=「そうですね、最初ですね、初動捜査のときはまあ、両面というか、どちらかよくわからない、両方ですね、少時と中田という両方ですね」
宇津弁護人=「その少時というものについて、それはどういう意味を持つのか、それに関連する捜査をある期間行なったということはあるわけですね」
証人=「ある期間といっても死体の発見までですね。死体が出ましたですね、多分四日と記憶しますが、ほんの一日二日と思います、その捜査はですね」
宇津弁護人=「どういう捜査を行いましたか、少時というものについて」
証人=「少時という人があの付近に、そういう該当者がおるかどうかというようなことですね。そのうちに死体発見があったので」
宇津弁護人=「ちょっと待って下さい。普通の警察では本件のように少時様とか、そういう特定の氏名が問題になる場合に、ある区域を、狭山市内なら狭山市内全域ということで徹底的に調べてみるという方法をよく取られていると思いますが、本件についてもそのような方法でおやりになったわけですか」
証人=「ええ、最初ですね」
宇津弁護人=「まだ、警察のことはよくわからないんですが、具体的にはそういう全面的に調べる方法はどういう方法なんでございますか」
証人=「どういう方法ですか」
宇津弁護人=「どういう方法で徹底的に調べていくわけですか。少時という人間が存在するかどうかについて」
証人=「それはまあ、警察の方にも、市役所に照会というかね、そうしなくても、あの辺になりますと、在ですから、これはもう、そういう記録を見なくても、ほとんどわかります。そういう公簿を引っ張り出さなくても、捜査員でも、大体受持ちが、自分のところだけはわかりますからね、二、三年いればほとんど」
宇津弁護人=「少時様とここにありますが、狭山市内に少時という苗字とか名前があるかどうかについて、狭山署管内の警察にあたりをつけたということはあるわけですか」
証人=「ええ、あちこち該当者の発見に努めたことはあります。最初ですね」
宇津弁護人=「捜査本部としてそういう指示を流したことがあるわけですか」
証人=「だから、最初はその少時と両方ですが、すぐ薄くなったわけですね、すぐ打ち切ったわけです」
宇津弁護人=「それは捜査本部としては誰にそういう指示を流したのですか」
証人=「そう細かい点、私は」
宇津弁護人=「狭山署の警察官ということですか」
証人=「いや、そうではありません。すぐ翌日、多分二日の晩ですね、県下の刑事を動員しまして、二百名以上集めましたが、まあ、混成部隊ですが、それと死体の発見が主力でしたから、ほとんど山狩り、消防団全部動員して死体発見のため、被害者の発見が先だったですね。そういうことで、ほとんどさっき申しましたように、うちの署員は直接捜査というよりは、後方部隊だったと。半数はほとんど一般事務とそういうような県下から集まった捜査員の食糧の補給とか、そういう雑用の事務があったと、最初ですね、ほとんど混成部隊だったですからね」
宇津弁護人=「そうすると、少時様については具体的にどういう方々が捜査に従事したんですか」
証人=「そういうようなですね、該当者がおるかどうかということは私のほうの署員が、大体受持ちとか、刑事とかが主としてですね。一面また被害者の発見というほうと両面だったですから」
宇津弁護人=「そうしますと、狭山署管内にはですね、少時というものは存在しないというようなことは確認の上、その後の捜査が進んだわけですか」
証人=「確認する、しない、その辺がまだはっきりしないうちに死体のほうが四日でしょうか、多分発見されております。それで、まあ最初は急遽二、三百人集めましたが、その方もごたごたしまして一日二日は捜査までいかんです。ただ、集まって部隊を編成して、どうだこうだで一日、二日は捜査といっても捜査というほどでもなかったですね。機動隊が山狩りするとか消防団が山狩りするで、死体の発見が主でした」
宇津弁護人=「そうすると証人としては、少時なる者について管内にいるかどうかについては一応捜査は尽くされたと考えておられますか」
証人=「あのときは捜査は初日ちょっとやったんですが、はっきりは出なかったですね、あまり記憶ないですね。尽くしたか、尽くさぬかと言われてみるとね、今、ここで言われてもはっきりしません」
宇津弁護人=「しかし、石川君に対する取調調書を見ますとね、警察及び検察官のですね、かなり後の方まで、七月三日頃まで、その少時という字について、いろいろ取調べが行なわれているようですけれども、従って、石川君が逮捕された後もある程度少時という者についての裏付けの捜査は行なわれたのではないでしょうか」
証人=「そういう意味ですか、それは一部まあ、担当した人もおると思います。とにかく、そのときの人でないと分かりません。急に県下から動員されまして、分担してやったんですから。ですから、私が今、ここで全部記憶は出ません」
宇津弁護人=「そうすると、今までの証言をまとめさせていただきますと、事件発生直後、死体が発見されるまでの初動捜査の段階でも、ある程度の、少時なるものの捜査をしたと」
証人=「ええ」
宇津弁護人=「その後、石川君が逮捕された後にですね、ある程度継続的に少時についての捜査を行なっただろうと、こういう風に聞いていいですか」
証人=「ええ、記録にあれば多分そうです。私のほうは記録もないし、記憶がもう薄れています」
宇津弁護人=「ですから、この少時についてね、取調べが行なわれているようであれば、その裏付けの捜査が行なわれていたであろうという風に仰るわけですね」
証人=「そうですね」
(続く)