アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 1420

狭山事件公判調書第二審4248-34丁〜】

                                     『意見書』

                    東京高等検察庁  検事  大槻一雄  

                                                        昭和四十九年二月七日

                                            *

   第八   自白と証拠物の荒縄、木綿細引紐の関係

   一   被害者=中田善枝の死体とともに発見された荒縄(東京高裁昭和四十一年押一八七号符合八・九)および木綿細引紐(同押号符合六・七)のうち、荒縄については、被告人の司法警察員および検察官に対する供述調書、被告人の原審公判における供述並びに当審証人=中川ゑみ子、同=余湖正伸の供述により、被告人が五月一日の夕刻、狭山市入間川字東里二六八●番地の中川ゑみ子方南側に張り巡らしてあったものと、同家南側の隣家で当時建築中であった椎名稔方敷地東側に張り巡らしてあったものを取り外して、本件死体遺棄の現場に持ってきたものと認めるのが相当であると思料する。

   二   ところが被告人、弁護人は、被告人の右の点についての捜査段階の供述は、当時被告人の取調官であった長谷部梅吉の誘導によるもので真実と相違しており、当審で取調べた司法警察員=神田正雄作成の実況見分調書によっても、当時中川家で盗まれた縄の長さが当時の状況を再現して実測した結果、合計一九・八七米、椎名方敷地東側で盗まれた縄の長さが、同敷地東側の長さと同じであると推定して十一・三〇米になるから、同所で盗まれた縄の長さは少なくとも三一・一七米あったと考えられるところ、被害者=善枝の死体とともに掘り出された縄の長さは複雑な結び目があるので正確な測定はできないが、誤差を見込んでも二四・五米か二五米しかなく、その長さが七米余りも相違しており、被告人の司法警察員調書ないしは検察官調書によっても被告人が盗ってきた縄を一部捨てたとか使用しなかったという供述もなく、現場付近にそういう痕跡もないから、被告人の自白は客観的事実と相違し、信用性がないと主張する。

   三   しかしながら、当審証人=青木一夫(第八回、第五十二回公判)、同=長谷部梅吉(第九回、第十回公判)、同=将田政二(第五十回公判)の各供述を総合すれば、警察では、被告人の自白前から夙(つと)に、中川ゑみ子方、椎名稔方の荒縄盗難の事実を聞き込んではいたものの、本件証拠物と同種の荒縄類は右以外にも死体遺棄現場からほど遠からぬ茶畑等にも多量に存在した事実もあったので、警察としては、むしろ被害者=善枝の死体とともに発見された荒縄は犯人が付近の右茶畑等から持って来たものではなかろうかと考えていたような事情があったのであるから、被告人を取調べるに当たっても、右荒縄の出所につき、一ヶ所に絞って誘導をする必要はなかったことが明白であり、取調官側としては、被告人の任意の自供によって始めて、被告人が被害者=善枝の死体を芋穴に逆さ吊りをした際、前記中川方および椎名方より持って来た荒縄を利用したことを知るに至ったことを肯認するに十分であると思料する。

   被告人は、当審第三回並びに第二十六回公判において、本件の縄のことについて取調べに当たった長谷部梅吉等に色々尋ねられたが全く判らなかったので、かねて懇意の巡査部長=関源三に相談したところ関は、長谷部等の言うとおりにしておけば君のためにもなると言ったので、その後、長谷部から縄は源さんの家の近くから持って来たんだろう、嘘だと思ったら茶碗に触って見ろと言って、長谷部が退席したので調べ室にあった五個の茶碗のうち一個に被告人が手を触れた後、入室した長谷部がこれを当てたというような経緯もあって、長谷部の言うところに従った旨、いかにも具体性のあるかのような供述をするのであるが、当審証人=長谷部梅吉、同=関源三の各供述によっても、これを肯認することができないばかりでなく、被告人の当審第三回公判における供述は、被害者=善枝の首に巻いてあった木綿細引紐に関して長谷部から右のような誘導を受けたというものであり、当審第二十六回公判における供述は、右被害者の足に巻いてあった荒縄に関して長谷部から右のような誘導を受けたというもので、首の縄すなわち右木綿細引紐については誰からも誘導を受けなかったというのであるから、被告人の右供述は前後に大きな自己矛盾があり、しかも右供述ともかなり詳細に亘(わた)るものであるだけに、前の供述が単なる思い違いということは到底できず、この一事をもってしても被告人の当審公判における供述が如何に作為的であって信を措(お)き難いものであるかを如実に窺い知ることができる。

(次回、四へ進む)

                                            *