『物証をめぐる諸問題』
ビニール風呂敷、二本の木綿細引ひも、荒縄について
弁護人=福地明人
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二、「荒縄と木綿細引ひもについて」
(二) 荒縄と木綿細引ひもの使用方法について
(取調べ調書より)
(イ)6・25員「私はその麻縄のようなものや縄をつなぎ合わせ、縄のほうは二本か三本合わせて切れないようにし、善枝さんの両足を揃えて足をしばって・・・」「(ビニールの風呂敷は)善枝ちゃんの足をしばる時に縄を足して使いました・・・」
(ロ)6・25検「持って来た縄を切れないように三本くらい束にしその女の足首をしばり、さらに麻紐も足首にかけて・・・」
(ハ)6・28員「ビニールの風呂敷を縄につないで・・・(中略)・・・ビニールの風呂敷が切れてしまったので、拾ってきた縄の二本の内の一本へ麻縄の端をしばりつけ・・・(中略)・・・麻縄の(輪の)間へ善枝ちゃんの両足を入れ・・・」
(ニ)6・29員 はっきりしない。
(ホ)7・7検「麻縄のほうを善枝ちゃんの足首にかけ、その麻縄に三本か四本にした縄をつないだような気がします」
(ヘ)被告人供述 特になし。
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以上から次のことが言える。
(イ)、(ロ)が作成された6月25日の段階で被告人は、死体の足首は荒縄でしばられていると考えている。そこで(イ)、(ロ)とも「縄で足をしばって」という供述になっている。特に(ロ)では「さらに麻紐も足首にかけて」となり、足首は荒縄でしばられ、麻紐がかけられている状態を供述している。
この被告人の供述が大野喜平作成の実況見分調書添付写真と合致しないのは明らかである。そこで被告人の供述は(ハ)に至り訂正されてしまう。
(ハ)に至り、足首をしばり、あるいは足首にかけたのは麻縄だけに統一されるのである。
この供述経過は、被告人が当初、死体と荒縄、木綿細引ひもとの結着状況を知らなかったのだということをはっきりと窺わせる。
三、簡単なまとめ
以上述べてきたところからすでに確定的に明らかであると言い切れることは、被告人が死体処理に伴うビニール風呂敷、荒縄、木綿細引ひもについて、その出所、その使用目的、使用方法などを全く知らなかったということである。被告人のこれらについての供述の矛盾はまことに甚だしく、真の犯人であるならば到底あり得ない混乱を示している。この四つの物証に関する弁護団の従来の主張は全く正しいものであった。
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以上が弁護人=福地明人の弁論である。狭山事件弁護団による弁論はまだまだ続く。
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○ところで久しぶりに事件が起きた狭山市近郊を歩いてみた。まずは不老川の下流に辿り着いたので、ここ(中新田)から堀兼方面へ向かう。
聞こえてくるのは遠くで作業中のトラクターの唸る音、そして姿は見えぬが遥か上空からの鳥の声だけだ。左に見える不老川の水面にはアメンボがいた。
この辺りは全周囲がこのような景色で埋めつくされている。土質がとても良い印象を受け、作物も元気に育っている。
ここらが上赤坂であるが、この地区範囲はなかなか広大であり、ここで少し事件に触れるが、この広いエリア内に被害者宅が存在していたことなど、菅原四丁目(現:狭山市駅近く)に住んでいた被告が知る由もないだろう。真犯人は明らかにこの上赤坂・堀兼周辺に居住し、当然であるが佐野屋の存在をも知っていた者であろう。五月二日の晩、張込んだ捜査員らを尻目に逃走を成功させている事実がそれを物語っている。
・・・などと事件の推理をつぶやきながら堀兼へ向かった(この話は続く)。