芋穴から発見されたビニール風呂敷について、以下の情報が見つかった。
なるほど、こういうことであったのだな。狭山事件に興味を持っていても、ビニール風呂敷や荒縄、木綿細引ひもの問題を正確に理解することはなかったが、これでやっと公判記録について行けそうである。写真は"差別が奪った青春(実録・狭山事件)"=部落解放研究所・解放出版社より引用。
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【狭山事件公判調書第二審4133丁〜】
『物証をめぐる諸問題』
ビニール風呂敷、二本の木綿細引ひも、荒縄について
弁護人=福地明人
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(五) ビニール風呂敷はいつ切れたか。
(イ)6・25員「足をしばる時に、縄に足してつないで使いましたが、切れてしまったので私がポケットに入れておきました。善枝ちゃんを埋めてから、その風呂敷が残っていたことに気がつき、穴ぐらの中にその風呂敷を投げこみ・・・・・・」
(ロ)6・25検「ひものように引きしぼって善枝ちゃんを穴に吊るす前に足をしばりましたが、それは切れてしまったので藷穴の中に捨ててしまいました」
(ハ)6・28員「縄につないで、足首に巻いて強く引っ張ったら切れてしまったのです」「足をしばろうと思ったが、縄につないで引っ張ってみたら切れてしまった」
(ニ)なし
(ホ)7・7検「足首をしばり、ビニールの端を麻縄に結びましたが、一寸引っ張ったら切れた」
(ヘ)被告人供述
問=「いつ切れたですか」
被告人=「善枝ちゃんを穴の中へ入れようと思った時、切れちゃったです」
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以上のことから次のことが言える。
1. 足をしばった時に切れたとするのが(ロ)。
縄につないで、足に巻いて引っ張った時に切れたとするのが(ハ)。
足をしばる前に縄につないで引っ張ったら切れたというのが(ハ)。
足をしばって、その後で麻縄に結んでちょっと引っ張ったら切れたというのが(ホ)。
善枝ちゃんを穴の中に入れようと思った時に切れたというのが(ヘ)。
以上のように、全部切れた時期が異なっている。特に(ハ)は同一の調書の中ではっきりと異なっている。
2. (ヘ)によると、まさに「穴の中へ入れようと思った時」に切れたという。切れた時期として(ヘ)が最も遅い。(ヘ)が真実だとすれば、死体が穴の中へ落ちてしまうことにもなりかねない。
3. 以上のことは、被告人が、ビニール風呂敷がいつ切れたのかについて全く何も知らないのだということを示している。被告人の供述のうちどれを信じていいのか誰でも戸惑ってしまうだろう。
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(六)ビニール風呂敷は「荒縄」に結びつけられたのか、それとも「木綿細引ひも」に結びつけられたのか。
大野喜平作成の実況見分調書添付写真からは後者であることがほぼ間違いない。調書を見てみよう。
(イ)6・25員「ビニールの風呂敷は善枝ちゃんの足をしばる時に縄に足してつないで使いましたが、切れてしまった」
(ロ)6・25検 はっきりしない。
(ハ)6・28員「ビニールの風呂敷を縄につないで引っ張ってみたらビニールの風呂敷が切れてしまったので、縄の二本の内の一本へ麻縄の端をしばりつけ、麻縄のもう一方の端をもう一本の縄へしばりつけました」
(ニ)6・29員 なし。
(ホ)7・7検「(ビニール風呂敷で)足首をしばり、ビニールの端を麻縄に結びましたが・・・」
(ヘ)被告人供述
問=「(ビニール風呂敷は)何に使ったですか」
被告人=「縄で一度ゆわえて・・・・・・」
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以上から言えることは次のことである。
1. ビニール風呂敷を何に結んだか。
(イ)によると「ビニール風呂敷は縄に足してつないだ」という。(イ)、(ハ)など青木一夫、遠藤三は、「荒縄」を「縄」と言い、「木綿細引ひも」を「麻縄」と言ってはっきりと使い分けているが、そうすると(イ)ではビニール風呂敷は荒縄に結びつけられたことになる。なお、右の使い分けは(ロ)、(ホ)など原正作成の検面調書では「荒縄」を「縄」、「木綿細引ひも」を「麻紐」又は「麻縄」として表現されている。
(ロ)ではビニール風呂敷を何に結んだかはっきりしない。
(ハ)は、はっきりとビニール風呂敷を「縄」につないだと述べており、右の使い分けにより、ビニール風呂敷は(イ)と同様「荒縄」に結びつけられたことになる。
(ホ)に至って、(イ)、(ハ)はひっくり返され、ビニール風呂敷はここで初めて「麻縄」に結びつけられたことに変化する。
(ヘ)は、はっきりしない。というのは、ここでは尋問が「縄」が荒縄のみを指すのか、麻紐をも含むのか、その使い分けの定義がされていないからである。強いて言えば、被告人の調書が一貫して使い分けをしていることから、ここでもビニール風呂敷は「荒縄」にゆわえられたことになるだろう。
2. 右から言えることは、被告人がビニール風呂敷を荒縄に結んだのか、木綿細引ひもに結んだのか、はっきり知らなかったということである。
(イ)、(ハ)と「荒縄」で進展してきた自白は、(ホ)の検面調書で訂正されてしまう。これは検察官が大野喜平作成の実況見分調書添付写真に合わせようとしたからに他ならない。
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"物証をめぐる諸問題"の"一. ビニール風呂敷について"は以上である。次回から"二. 荒縄と木綿細引ひもについて"に進む。
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○引用中の公判調書であるが、内容の深さゆえ相当な読み応えがある。現在、4135丁まで読み進めてきたところであるがまったく疲れなど感じられず、むしろ脳が覚醒し集中し過ぎて困るほどだ。