『物証をめぐる諸問題』
ビニール風呂敷、二本の木綿細引ひも、荒縄について
弁護人=福地明人
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二、「荒縄と木綿細引ひもについて」
(一)荒縄と木綿細引ひもとの結び方について
調書を見てみよう。
(イ)6・25員「その麻縄のようなものや縄をつなぎ合わせ・・・・・・」
(ロ)6・25検「持って来た縄を切れないように、三本くらい束にし、その女の足首をしばり、さらに麻紐も足首にかけて・・・・・・」
(ハ)6・28員「拾ってきた縄の二本のうちの一本へ麻縄の端をしばりつけ、麻縄のもう一本の端をもう一本の縄へしばりつけました。そうすると結び目が二つ出来ますが、その結び目を二つ一ヶ所に揃えると麻縄は二重になって、その先が半分の輪のようになります。私の住んでいる四丁目の方では藁(わら)でなった縄を縄と言い、その他の麻でなった縄や"しゅろ縄"などを麻縄と読んでいます。半分の輪のようになった麻縄の間へ、揃えた二本の縄を通すと輪が出来るから、その中へ善枝ちゃんの両足を揃えて入れて輪を小さくするとしっかりと緊(しま)ります」
(ニ)6・29員 特になし。
(ホ)7・7検「麻縄と縄とをどういう風につなぎ合わせて使ったか判然した記憶はありませんが、麻縄の方を善枝ちゃんの足首にかけ、その麻縄に三本か四本にした縄をつないだ様な気がします」
(ヘ)被告人供述 特になし。
(数字は調書の日付)
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以上のことから次のことが言える。
1. (イ)、(ロ)からは結び方ははっきりしない。
重要なのは(ハ)である。荒縄と木綿細引ひもの結び方について、そしてそれを足首にかけたやり方について、ここでは異常なほど詳細な供述が記載されているからである。
ところが、この(ハ)の供述は実は全くの虚偽架空のものである。その理由の第一は、この供述のとおりに荒縄と木綿細引ひもとを結び、そしてそれを右供述のやり方で足首にかけると、大野喜平作成の実況見分調書添付写真33、34のとおりにならないからである。これは実験してみるとよくわかる。
写真33、34などから判断すれば、荒縄と木綿細引ひもとは、(ハ)のようなやり方ではなく、麻縄の両端を揃えて、それと二本の荒縄の中間点(揃えて四本の状態になっているもの)とを結びつけるやり方で結ばれたものである。
第二に、(ハ)はいわゆる「ひこつくし様(よう)」のしばり方を述べたものであるが(もっとも、ひこつくしが本当にこの様な結び方であるのかは疑問である)、そのやり方がまた非常に不自然で、むしろ間違っていると言っていいからである。(ハ)は先に輪を作り、その中へ縄を通すやり方を説明しているが、このやり方は恐ろしく面倒である。通すべき荒縄の部分が大きく長いからである。
やり方としては、むしろ木綿細引ひもの輪の部分を折り返すようにして、木綿細引ひもに引っかけることによって簡単に出来るのである。
2. (ハ)の右供述記載は、ここでもまた(ホ)で訂正変更されている。検察官が訂正変更の必要と感じたのは、まさに右に述べた実況見分調書の添付写真との完全な矛盾を発見したからである。しかし、全面的な訂正変更は不可能なため、(ホ)のような巧妙なぼかし方になったのである。しかし、その訂正変更は不自然であり、(ハ)の具体的詳細な供述(ただし虚偽の供述)に比し、余りにもおざなりである。
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次回、"(二)荒縄と木綿細引ひもの使用方法について"へ続く。