【狭山事件公判調書第二審4060丁〜】
自白論 その(1) 『鞄・万年筆・腕時計と自白』
弁護人=宮沢祥夫
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(第二、 「万年筆」(二)の続き)
特に勝手場については六畳の間から入口右側をも捜査し、雨合羽作業衣がかけてあるのを確認しているのであって、それにも拘わらずその他本件に関係あるものは「何もない」ことを確認しているのである(当審提出六月十八日付実況見分調書)。
この捜査によって本件捜査の目的物は勝手場には何もなかったが、他の箇所から青色ボールペン・大学ノート等三点については押収している。かくして、家探しというほど徹底した捜索、さらには目的を限定した重点捜索、その二面について勝手場は対象とされて、ボロ布を詰めた鼠穴まで捜索され天井裏から床下までくまなく捜索された、その結果何もなかったのである。このことは当審に初めて提出された六月十六日小島朝政作成の実況見分調書・当審第十六回公判における石川六造の証言を見れば明らかである。当審第十三回公判における小島証言を見ても、被告人宅に鴨居があったことを知っており、特に第二回目捜索に当たっては捜索漏れのないように、あらかじめ捜索分担を決めてやり、捜索の最後に捜索員に全部終わったかと確認して打ち切っていることより見れば、万年筆が被告人宅になかったことは明らかである。
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○家宅捜索の際に撮影された写真。右側に写る人物のちょうど頭の上に鴨居がある。
○弁護団による現場検証時(1970年)に撮影された写真。鉛筆で指し示した所(鴨居の上)に万年筆があった。
仮にこの万年筆が被害者の所持していた物だとしても、まずそれを所有すること自体が危険極まりなく、しかも自宅のこんな場所へ置くということは二重に危険を招くと真犯人ならば考えるだろう。
ところで狭山事件における第四次再審請求にあたり、これまで同様、指揮を執ることになった家令和典裁判長はこの事件をどう見るか、その判断を刮目して待とう。