【狭山事件公判調書第二審3760丁〜】
八幡敏雄による鑑定
(四)降雨状況において右作業に要する時間及び、降雨のため右作業が困難となる場合の具体的状況など。
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(四)について
降雨の場合の推定には不明な要素が多過ぎて推測が甚だ困難であるが、五月一日以前は晴天が続いており、且つ、宵のうちの雨量は十数ミリ程度と推定されるからこの程度の雨では表層一〇糎(センチ)くらいが水を含むだけで堀作にも埋め戻しにもあまり大きな困難を与えまい。
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(五)降雨状況において、右土質の変化態様(さらさらと流れるか、又は粘着性を帯有するかなど)。
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(五)について
雨量によって違うが前項のような状況であれば「表層保留」の行なわれる表面一〇糎ほどの部分の土は粘着性となりスコップに粘り付いてその部分の土のあしらいには妨げとなろう。
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(六)降雨状況のもとでの右残土の流失の態様について(雨と共に流失してしまうか。流失の痕跡は明白に残るかなど)。
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(六)について
雨水の保留能力の高い土であるから残土の堆積に三十数耗の雨が降り注いでも、それだけで行方が分からぬほどに流失してしまうことは起こり得ない。尤も火山灰地帯でも農道表面には比較的早く雨水の流れが生じ傾斜があると路面で水蝕を生じやすいことが知られているが、犯行現場は農道とは伝い条、『道路の形態を具えていない』のであり、「現場写真4号」で見ても全く平坦でそのようなことはまず起こることはあるまい。
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(七)降雨状況で埋没完了後六〜七時間を経過して、仮に晴天で二日ないし三日を経過した場合、同穴の表面の土の状況について(なお、本件作業は通常のスコップによる)。
(七)について
投げ込まれた土がゆるくつまっている場合(したがって多くの残土を生じる場合)には埋め戻した地表表面は多少沈下を生じるであろう。そのとき表面がどのような外観を呈しているかについては不明な要素が多過ぎて何とも言えない。
(続く)