


【狭山事件公判調書第二審4225丁〜】
『玉石と残土』
死体埋葬現場の客観的状況と自白内容との矛盾
弁護人=藤田一良
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一、はじめに
石川一雄君に死刑を言い渡した原判決は、被害者中田善枝の死体の処理について、つぎのとおり認定した。
「(被告人は)前記のとおり中田善枝を殺害した後、同女の死体を一時芋穴に隠し、のちにこれを農道に埋めて前記犯罪を隠蔽しようと考え、・・・・・・・・・後記犯示第三のように脅迫状を中田栄作方に届けた後、再び右芋穴のところに引返し、同夜九時頃その途中にある同市入間川二五九〇番地の農道に縦約一米六六糎、横約八八糎、深さ約八六糎の穴を掘り、その中に前記の如き両手を後手に縛り、目隠しを施し、足首を縛り、荒縄をつけたままの姿で俯にして入れて土をかけ埋没し、以ってこれを遺棄した。」
右の認定は、言うまでもなくほぼ右判示の如き状態で、死体が現実に、事件発生後三日経った五月四日午前十時三十分頃、「山狩り」を行なっていた警防団員らによって発見、発掘されたこと、及びこれについての石川被告の自白に基礎を置いてなされたものである。
しかしながら、この原判決の認定は、強引に石川君を有罪にしようとするあまり、死体発見現場の、極めて作為的且つ不自然な状況に対し、合理的解明を全く欠落させたままなされた、重大な事実誤認を包蔵(注:1)するものとして到底われわれを納得させるものでない、と言わざるを得ない。
私はここに、玉石と残土の問題を中心に、石川君の自白と死体発見現場の客観的状況との決定的な矛盾を明らかにして、石川君の無実を論証しようとするものである。
注:1「包蔵(ほうぞう)」=内部にもっていること。包み隠していること。
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二、死体発見現場の具体的状況
「死体発見現場の土質は黒色のやわらかい土で、機動隊員が発見し、引き続いて発掘し始めた穴をさらに掘り下げるに、古い茶の木の葉やビニールの汚れた紙片等が土に混じって掘り出されたが、被疑者が被害者の死体を遺棄する際掘った元穴の形状は、縦が一・六六米、横が〇・八八米、深さ〇・八六米であった。・・・・・・前記穴を次第に掘るに、黒革製段短靴のかかとの部分から漸次、人体脊部の脛・腿・上体・後頭部が現われ、両腕を後手にして手首を手拭いで縛られた若い女性の死体と判明した。
死体は穴の底の方に頭部を南方に向けてうつぶせとなり、死体の右側頭部に接して人頭大の玉石一箇を発見し、両足は黒革製短靴をはいたまま概ねまっすぐに伸(の)していた。
死体には太い荒縄がたぐったように身体上部に置かれていた。」
と、死体発見の状況を描いている。
しかし、右実況見分調書の記載は、必ずしもすべて正確であると考えられない。すなわち、ビニール紙片は添付写真十一号に示されているように、発見の順序は、死体を取り出した後、穴の底に存在したものである。また、「荒縄はたぐったように死体上部に置かれていた」とのみ単純に片付けられてよいものであるかどうか、同九号、十号等の写真を見ただけで、甚だ問題であると言わなければならない。(たとえば、中=県警刑事部長は、「両手は後手にハンカチで縛り、さらに新しい荒縄で、胴体と両足をがんじがらめに縛ってあった。」と新聞記者に発表している。)
ビニール片、古い茶の葉等が、自然に土中に存在したとは考えられない。(茶の葉は、自然的埋没の場合は、比較的速やかに腐蝕するものであることは明らかである。)また、玉石も、現場の土質からみて、自然のまま、偶然その場所に存在したとは到底考えられない。してみれば、これらのものは、犯人によって埋め込まれたものというほかなく、犯人は、何のためそれを置いたか、また、複雑に絡み合っている荒縄は、一体犯行にどのように使われたのか等々の点の解明が、原判決においてもなされなければならなかったことは、極めて明らかと言わなければならない。
(続く)