アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 1424

狭山事件公判調書第二審4248-40丁〜】

                                     『意見書』

                    東京高等検察庁  検事  大槻一雄  

                                                        昭和四十九年二月七日

                                            *

   三   むしろ本件玉石が、殺害された被害者の死体を隠すために埋められていたと思われる土中からたまたま発見されたという事実を素朴に観察する限り、右玉石は、特に犯人が、死体埋没の際わざわざ他から持って来て埋めたなどという弁護人の主張はいかにも不自然である上、何らの根拠もない全くの憶測に過ぎない。したがって被告人の捜査段階における供述が右玉石のことに触れていないことはむしろ当然であり、その上、被告人が死体を埋没するため現場で土を掘ったのは夜間暗闇の中でのことであり、また、早急に死体を埋没しなければならない必要上、懸命に急いで作業をしたのであるから、作業に夢中の余りそのような石塊の存在に気が付かなかったか、あるいはその場では気が付いたとしても、たまたま土の中に石塊が存在することはごくありふれたことであるだけに。特段記憶にも残らなかったものとも思われるのである。

                                            *

   四   さらに、弁護人の引用する和歌森太郎上田正昭作成の鑑定書は、鑑定人の専攻とされる日本宗教史や日本民俗学の立場からの研究資料としては、それなりに意味のあるものとも思料されるが、こと本件に関する限りは全くの独断に終始した鑑定であって、その採用に値しないことは改めて論ずるまでもないと思料される。

                                            *

   五   なお、弁護人は本件死体埋没現場の穴を掘った際の残土の処理や、死体埋没現場近くの芋穴の中から発見された棍棒に関連して被告人の捜査段階における供述の信用性がないと主張している。

   六   まず残土について言えば、大野:実況見分調書にあるような穴を掘り、その中に被害者の死体を入れて土を埋め戻した場合、その埋め戻した土の上を足で踏み固めたとしても、なお残土が残るであろうことは、敢えて鑑定を俟(ま)たなくとも容易に推測できるところである。しかしながら、その場合の残土の量が具体的にはどのくらいであり、また、死体を埋没してから埋め戻しをして、足で踏み固める作業を完了するまでにどれだけの時間を要するかということは、現場の土質や土の状態、作業に従事する者の力量、作業についての熟練度、作業のやり方、作業をするにあたっての気構え等々の複雑な要素が絡み合ってくるので、一概には断定し難いものと思料される。現に八幡鑑定書に記載されている掘作、埋め戻しの二つの実験例について見ても、埋め戻しの際、足で踏み固めをどの程度行なうかによって、残土の量が極端に違うことが明らかである。すなわち、右の二つの実験例のうち、埋め戻しに際しあまり踏み固めをしなかった前者の場合は、残土の量が二四七瓩(注:1)(石油缶約十六杯分)であるが、埋め戻しに際してかなり踏み固めをした後者の場合は、残土の量が九二瓩(石油缶約六杯)ということになり、踏み固めの程度如何によって残土の量が半分以上も減少するのである。しかもその堀作と埋め戻しに要した時間は、右鑑定書によると前者では約三十分、後者では約三十五分であったというのであるから、両者の所要時間の差は僅か五分に過ぎないのである。

   さらに、右鑑定書によれば、「本実験でも後者の場合に踏み固めが全層に亘って穴の中央部並に行なわれたならば、全土量が残土なしに穴の中に戻った筈だという計算結果が出た」(同鑑定書三枚目表六行目ないし八行目)というのであるから、埋め戻しに際し踏み固めを十分に行ないさえすれば、残土はほとんど残らないというのが、まさに八幡鑑定の結論であると言わねばならない。しかも、踏み固めを十分に行なうための所要時間は、右実験例に徴してもさほど長時間を要しないことが明らかである。

   そこで、これを本件の場合について考えて見ると、関係証拠によって明らかなように、被告人はかつて土建業=西川正雄方に雇われて土方仕事をした経験もある上、人並み秀(ひい)れた体力と腕力の持ち主であり、しかも本件犯行時はまさに緊急非常の際でもあったのであるから、スコップで現場の土を掘り起こし、近くの芋穴から被害者の死体を引き上げ、これを掘った穴のところに運搬して、穴の中に埋め、さらに掘った土を埋め戻してこれを踏み固めるという一連の作業は、極めて迅速かつ的確に行なわれたであろうことは容易に推測されるところであり、また、被告人の検事=河本仁之に対する七月六日付供述調書によれば、死体を埋めた穴を掘った土は、その脇の麦畑や茶の木の方に放った、したがって死体を埋めた後も麦畑辺りに掘った土の残りがそのままあったかも知れない旨の供述があり、残土を死体を埋没した農道の付近の畑に放り捨てた状況も窺われるので、まとまった量の残土がなかったとしても何ら異とするに当たらないことであり、また、右のような残土処理の方法によれば、作業時間もさほどかからないものと思料されるので、被告人の残土処理等に関する供述についてはその信用性に疑をさし挟む余地はないものと思料する。

(続く)

注:1「瓩」=キログラム。