アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 1320【判決】⑲


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犯人が現われた茶畑✖️印を北東から撮影。写真奥に見える佐野屋(◯印)周辺には四十名近い警察官が張り込んでいた。この後犯人は写真左方向へ逃走している。

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                    【狭山事件第二審・判決⑲】

                      (地下足袋・足跡について)

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   また、当審において取調べた五・四関口邦造作成の狭山警察署長あて「被疑者の足跡と思料されるものの発見に就(つ)いて」と題する書面によれば、これはその文面からみて同人作成の前記同日付実況見分調書よりも前に作成されたことが明らかであるが、被疑者が逃走した直後の五月三日午前一時ころ懐中電灯を用いて、被疑者が現われたと思われる佐野屋東方を捜査中、別紙図面①の地点において茶株とゴミを捨てた畑の中に北に向かって横線模様の地下足袋跡(右)が一個発見されたので保存のため地面に棒で地下足袋跡を◯をして茶の枯木を折って立てておいた、なお、この地点から南へ一米離れた畑の中に横線模様の地下足袋で踏み固められた足跡が直径一米くらいの範囲に丸く見分されたが重複して印象されており採取不能であった、この状況から被疑者はこの地点に潜伏していたものと推定された、午前五時四〇分ころ警察犬が来て逃走した被疑者の捜索にあたるため①の足跡から臭気をかがせたため、警察犬によって足跡は損傷してしまい採取不能となってしまった、そこで、佐野屋前の県道を約五〇米東進した地点を南に入る農道を南進し約一三〇米くらいの別添略図②の地点馬鈴薯畑において①の地点において発見したのと同一と認められる横線模様の足跡二〇個くらいを発見したので直ちに佐野屋北側県道にいた上司に午前六時ころ報告したものである、更に農道を南進して別添略図③の地点の畑を斜めに東から西に通っている①②と同一と思料される足跡三〇個くらいを発見した、・・・・・・本日実況見分を命ぜられた際、この地点を見分したところ、多数の足跡によって踏み荒らされて足跡採取は不能であった、となっている。

   かように原審に顕出された同日付員関口邦造作成の実況見分調書によれば、同日午前一〇時より午後一時にかけて同調書に記載されたとおりかなり広範囲に実況見分が行なわれたのであるが、その記載によれば「県道南東畑地を見分する、不老川に至るあいだ無数の長靴及び地下足袋ズック跡が認められたが本件被疑者の足跡と思料される、通称地下足袋が印象されてあったのは二カ所あったので写真撮影したる後見尺をなす」とあって、右の「通称地下足袋」の部分は黒色の原文とは異なり青インクで訂正されている点をみると、最初「素足跡」と書こうとして「素」の字を「表」と誤記したのでこれを棒線で消して一旦「素足跡」と書いた後、今度は青インクで「素足」を消して「通称地下足袋」と訂正したと認められる、誠に杜撰なものであり、添付の写真も①の標識を撮影したものや石膏を溶かすため使用したとおぼしきバケツと人影が写されているものがあるけれども、その他は概ね遠景写真で、採取足跡そのものを撮影したものが存在せず、写真の影像(注:1)からみて晴天時と雨後の少なくとも二日以上にわたって撮影したものを寄せ集めたものであると認められることも所論のとおりである。しかしながら、実況見分が行なわれた五月四日の右時間帯においては足跡が印象されてから既に三十数時間を経過し、付近は雑多な足跡が入り混じっていて、もはや犯人の足跡を判別することが出来なかったため足跡の接近撮影をしなかったものと判断される。そして現場足跡の実況見分をするに当たって、足跡を接近撮影した写真が添付されず、その代わりに日を異にして撮影されたことの明らかな遠景写真を添付するなど拙劣な方法であることは否定できないけれども、これらの写真相互及び実況見分調書の添付図面に一件記録中の航空写真を対照すると、茶株の形状等からして、足跡を採取した位置を明確に看取することができる。また、およそ足跡というのは人が歩行または駆足によって地上を移動することにより印象されるのであるから、連続しているのがむしろ当然である。ただ他の足跡等によって不明瞭になることのあるのはもとよりで、前記飯野証言や関口報告書に足跡の個数が記載されているのは、明瞭なものの個数をいっているものと解するのが合理的であり、その間連続した旨の記載がないから別の足跡である旨の所論及び関口調書に後日青インクで訂正した部分がある点をとらえてその信憑性を伝々するのはともかく、右調書が偽造であるとの所論はいずれも採用できない。

   なお、前記②の地点で採取された足跡は、前記飯野源治ほか一名作成の「現場足跡採取報告書」の記載及び証人飯野源治の当審(第五〇回)の供述によって認められるその歩幅が六四糎(センチ)あるいは七五糎で、西に向かって印象されている点に鑑(かんが)みると、同証人の推測とは逆に、むしろ犯人が佐野屋へ往く際の足跡であると推測される。

 

注:1「影像(えいぞう)」=光学的に写し出された像や写真、肖像画など、物理的な「形(影)」が映し出されたものを指し、現代ではあまり使われない言葉で、心理的な「イメージ」に近い意味で使われることもある。

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   ◯五・四関口邦造作成の狭山警察署長あて「被疑者の足跡と思料されるものの発見に就(つ)いて」と題する書面等が手元にあるはずもなく、虚しさだけが残った。