【狭山事件公判調書第二審3742丁〜】
大野 晋(学習院大学教授 文学博士)による鑑定書の続き。
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鑑定資料=石川一雄の上申書。
上申書の誤字。
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この上申書の文字を、書き手は一貫して平均した速度で書いており、特別の技巧を弄した表記とは見られない。したがって右の誤字・誤表記・脱字は、書き手の表記能力を自然に反映させた結果であると判断される。また「上申書」の「書」の字も誤っている。
この文字能力は被告人の学歴を見ることによって理解される。被告人は小学校に昭和二十年四月六日入学、昭和二十六年三月二十八日卒業しているが、その出欠は次の通りである。
国語の「書く能力」は、小学校四年、五年、六年ともにー2の評価を受けている。ー2とは五進法でいえば1にあたる。
「筆跡鑑定事項中第二の鑑定を行なうための資料としての被告人質問」の中で、戸谷鑑定人の質問に答えて被告が「うちで字を習うのは、選挙に行く前くらいで、後は字を書いたことはありません」と述べ、
戸谷「選挙に行かれる前に、自分のうちで候補者の氏名を練習していたのか」
被告人「そうです」
戸谷「あとはうちでは殆ど字を書いたことがなかったのか」
被告人「そうです」
と述べているのは、被告人の文字能力を如実に示すものであり、上申書に示された表記によって推定される筆者の文字能力と、それとはまさしく同様のものと思料される。
(続く)