【狭山事件公判調書第二審3634丁〜】
「第六十五回公判調書(供述)」(昭和四十七年)
証人=野口利蔵(四十六歳・警察官=所沢警察署捜査係巡査)
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橋本弁護人=「スコップのこと以外で、あなたが聞込みをしたことで記憶に残っていることはありますか」
証人=「ありません」
橋本弁護人=「たとえば被害者の中田善枝さんの通学路について、あなたが聞込みをやったというようなことはないですか」
証人=「ありません」
橋本弁護人=「被害者は鞄とか腕時計、財布、そういう物を身に付けていましたが、そういう被害者の所持品についての捜査をしたことはないですか」
証人=「ありません」
橋本弁護人=「被害者の家の家族関係とか交友関係について捜査をしたことはありませんか」
証人=「ありません」
橋本弁護人=「あなたはスコップ以外にもずっと連日聞込みをやっているわけですね」
証人=「はい」
橋本弁護人=「それらの聞込みの中で、こういうものがあったということはないんですか」
証人=「ありません」
橋本弁護人=「スコップ以外は」
証人=「はい」
橋本弁護人=「棒きれと言いますか、棍棒と言いますかね、そういうものについて聞込みをやったことはないですか」
証人=「ありません」
橋本弁護人=「死体が発見される前に、所沢へ捜査に行ったという話が出ましたね」
証人=「はい」
橋本弁護人=「どんなことがあったか、思い出せませんか」
証人=「・・・・・・質屋に行ったような記憶があります」
橋本弁護人=「そうすると、この事件に関係する贓品が入っているかどうかというような狙いですか」
証人=「そういう捜査ではなかったと思います」
橋本弁護人=「たとえば腕時計とか、そういう特定の物で聞込んだんですか、それとも一般的に怪しい物が入っているかどうかという聞込みですか」
証人=「堀兼方面のお客の出はいりを見に行ったと思います」
橋本弁護人=「それで何か目ぼしいものがあったんですか」
証人=「ありません」
橋本弁護人=「それは堀兼という風に限定しちゃったんですか、狭山市ですか」
証人=「はい、狭山市です」
橋本弁護人=「狭山市の者が質入れをしていないかどうか、というような捜査ですか」
証人=「はい」
橋本弁護人=「先ほどの石田豚屋のスコップのことに戻るんですが、あなたは、その豚小屋は非常に整理整頓されているという感じがしたか、あるいは雑然としているという感じだったか、どんな印象を受けましたか」
証人=「記憶ありません」
橋本弁護人=「スコップがその辺に放り出されているということじゃなかったですか」
証人=「場所については忘れましたけれども、いずれにしても豚小屋の敷地内だという記憶があります」
橋本弁護人=「その取られた場所は」
証人=「はい」
橋本弁護人=「豚小屋の敷地内に置いたものが取られたというのが被害者の話ですね」
証人=「そういうことです」
橋本弁護人=「あなた、現場へ行ってみて、取られたというスコップ以外にもスコップがあったでしょう」
証人=「気が付きませんでした」
橋本弁護人=「その石田豚屋の経営者はスコップがなくなったということがどうして分かったか、というような説明はしていましたか」
証人=「当時の記録を見ないとちょっと記憶がありません」
橋本弁護人=「じゃ、この日とこの日の間になくなったとか、この日の何時から何時の間になくなったとかいう時間は、はっきり言っていましたか」
証人=「ええ、言っておりました。そのように上申書を作成してあると思います」
橋本弁護人=「何かあなたがその話を聞いた時、そういう風になくなった時間を特定することの出来る証拠はあったんですか」
証人=「・・・・・・ちょっと、記録を見ないと分かりません」
橋本弁護人=「そのスコップの話を聞いた時、あなたの感じではこの事件に関係があると思ったんですか」
証人=「何らかの関係があるんじゃないかと思いました」
橋本弁護人=「全然無関係とは思わなかったんですね」
証人=「はい、関係があると思いましたから、報告したんです」
橋本弁護人=「つまりあなたとしては、この事件にスコップが使われているんだという、そういう考えを持っておったわけですね」
証人=「いずれにしても関係があるものだと思いまして報告しました」
橋本弁護人=「ですから、関係があるというのは、スコップが使用されたに違いないと、そして石田豚屋でなくなったスコップが、あるいは使用されたかも知れないという風に考えたという意味なんでしょう」
証人=「はい」
橋本弁護人=「死体は農道に埋められていたということは当然捜査員としては知っていましたね」
証人=「ええ」
橋本弁護人=「石田豚屋にもう一つ豚舎があるんですが、そちらの豚舎には行って見ませんでしたか」
証人=「ちょっと記憶ありません」
橋本弁護人=「その石田豚屋に訪ねて行く時に、直接あなた方二人だけで行ったんですか、それとも佐野屋の主人に連れて行ってもらったんですか」
証人=「私と吉田刑事と行った記憶があります」
橋本弁護人=「二人で」
証人=「はい」
橋本弁護人=「つまり石田豚屋のうちに訪ねて行ったということですね」
証人=「はい」
橋本弁護人=「本人はいたんですか」
証人=「いました」
橋本弁護人=「で、本人に案内されて現場に出かけたと、こういう順序になるわけですね」
証人=「はい」
(続く)