アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 1117

石川一雄氏は1963年5月23日に逮捕された。紆余曲折あり現在、彼は再審請求へ向け奮闘している。第二審公判調書を読めば読むほど、この事件には冤罪の匂いが立ち込めるが、先日の袴田事件再審無罪判決が、この狭山事件の結末を同様の結論に導いている気がしてならない。ともあれ、引き続き第二審公判の模様を眺めよう。

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『原文を読みやすくするために、句読点をつけたり、漢字にルビをふったり、中見出しを入れたり、漢字を仮名書きにしたり、行をかえたり、該当する図面や写真を添付した箇所があるが、中身は正確である』

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【公判調書3467丁〜】

                      「死体の鑑定について」

                                                    主任弁護人  中田直人

青木弁護人が述べられたところに加えて意見を述べたい。

一、先ず最初に私たち弁護人がこのような請求を行なうに至った経過を振り返って貰いたい。

原審以来、本件死体については五十嵐鑑定が存在している。私たちは本件死体と被告人の自白との間に多くの矛盾があることを原審の弁論の中で、あるいは控訴趣意書の中で主張してきた。五十嵐鑑定については原審で作成者:五十嵐の証人調が行なわれたが、内容は鑑定書の成立の問題に限られ、直接私たちの疑問点を尋問出来なかった。私たちは当審において従来原審で出来なかった疑問点の解明出来ることを期待し、当審の初期の段階で五十嵐証人の採用を裁判所に強く要望した。ところが久永裁判長は五十嵐証人を採用しなかった。五十嵐証人が採用されたのはようやく昨年の秋に至ってである。私たちは初めて五十嵐証人から直接疑問点につき証言を得る機会を持ったのであった。

二、五十嵐証人は本件死体の状況が被告人の自白と矛盾することを専門家の立場から証言した。例えば、本件死体はうつ伏せにされる前に一定時間仰向けにされていたこと、本件死体が逆さ吊りにされたとは考えられないこと、被害者のズロースの位置その他の状況から自白のような性交は出来ないことなどである。

私たちは従来の主張に加えて右のような五十嵐証言を得たので、今年二月の公判において死体に関する鑑定の請求を行なった。五月十日付で検察官から右鑑定請求に対する意見が出された。それ以前から私たちは裁判所に対し右鑑定の採用を強く求めていたけれども、五月十日に至っても、また今日に至っても裁判所からは採否について何らの意識表明もない。そればかりか裁判所は五月から六月にかけての段階で、かなりはっきりと審理のめどをいつ頃に置くかについての裁判所の意向を明らかにした。

このような中で、私たちは自らの手で鑑定を依頼し、鑑定書を作らざるを得なかった。上田鑑定はこうして出来上がったものである。裁判所はこの経過を充分に考慮し、右鑑定書の取調を採用すべきである。

三、ここで、五月十日付の検察官の死体鑑定に関する意見に対し若干反論したい。

検察官は右意見書の中で五十嵐証言を引用しながら本件死体の状況が被告人の自白と矛盾しないから鑑定は不要であると言っている。

検察官は五十嵐証人の「(この死体は)うつ伏せになる前に、先ほど申したようにかなり長い間、仰向けの姿勢を取っていたのではないかと思う」という証言は、原審の認定通りで、被告人が死体を芋穴に(仰向けに)隠し、それをさらに農道に(うつ伏せに)埋めなおしたのであるから被告人の自白と矛盾しないと言っている。しかし、ぶら下がっていた死体が仰向けになっていたというのは頂けない。逆さ吊り(原審の認定)が「仰向けに」というのなら、首吊り死体は全て「うつ伏せ」だったということになってしまう。

次に、検察官は死体の吊るし方がいわゆる宙吊りではなく、ゆるやかな吊り方であったのだから足首に縄の痕が残らなくてもおかしくはないと言い、被告人の七月一日付自白調書の中の「善枝ちゃんの体の頭からお尻くらいまでは、穴の底に着いている状況ではなかったかと思う」という供述を引用している。しかし、例えば六月二十五日付:原検事作成の調書の中では「桑の木に結んだ縄はぴんと張っていました」と供述しているし、六月二十八日付:青木一夫作成の調書によれば「桑の木に縛りつけた時も縄はピンと張っていたから善枝ちゃんの頭が穴ぐらの底の地面に着いていたかも知れないけれども・・・」と述べている。そしてこの六月二十八日付調書の右引用箇所は六月二十九日付同警察調書で再度確認されている。

これらの供述は検察官の引用する七月一日付調書と明らかに違っているのである。

更にこの七月一日付調書の内容は七月六日付:河本検事作成の調書で更に違ってきているのである。検察官が七月一日付調書の供述のみが真実だというのなら、他のこれと異なる内容を持つ調書は全て虚偽であることを明らかにすべきである。自らの立論に都合の良いところだけをつまみ喰いすべきではない。

これらの問題は鑑定に対する意見以前の主張の問題であり、私たちは防禦の問題であるから、つまみ喰いに類する反対意見は絶対に差し控えて欲しいものである。

なお、裁判所が右検察官の五月一日付意見が合理的であると考えて鑑定の採用を延ばしているのであれば、以上の意見を裁判所に対しても同様に申し述べておきたい。

(続く)