アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる481

【公判調書1588丁〜】

                          「狭山事件の特質」

                                                                          中田直人

第四、証拠評価の態度

5.『木綿細引紐は問題がもう少し発展する。自白調書では「麻縄は荒縄と一緒に盗んだが、それは倒してある梯子の附近にあった」と一貫している。被告人は当審第二十六回公判で次の通り述べている。「首に巻いてある縄の写真も見た。原検事は、朝日団地に落ちていたと言った。自分では判らない。長谷部から、荒縄は中川ゑみ子の垣根のところだと教えられたけれども麻縄は教えなかったと思う。だから自分でも答えられなかったと思う。それでどこからか判らなかった。中川ゑみ子のところから細引を持って来たと言ったような気もするがちょっと判らない」

中川ゑみ子が花壇を守るために椎名方の新築現場との境に垣根とする荒縄を張ったことは事実であるし、それにまた椎名方、中川方とも梯子はあったが、そのいずれにも、どこにも木綿細引紐は無かったのである。中川ゑみ子は、木綿細引紐は「判らない、検事に見せられたとき、見覚えがないと答えた」と証言しており、余湖証人は「警察の人からロープみたいなものを知らないかと縄を見せられたことがある。使った覚えもないし、持っていく必要もない、瓦屋が持っていったんじゃないか、と答えた。ロープは全然見覚えがない。私はロープを持って行ったことはないと言った。瓦屋に、そういうことがあって警察が聞きに行ったんじゃないかと聞いてみたら、誰もそういう縄は使わないから知らない、と言っていた」と証言し、問題の細引紐を示され、「それが判らなくてね」と答えている。余湖証言では「見覚えのないロープのことで警察から二回くらい聞かれ、調書も取られた。見覚えがない、と書いてある。多分六月頃、検事に一番後に聞かれたときも、ロープは見覚えがないと答えた」というのである。そして彼等の証言が全く正確なことは、取調べられた六月三十日付神田正雄の実況見分調書、中川ゑみ子の七月二日付河本調書の存在と、その記載内容によって裏付けられている。自白の虚偽は、客観的にもはや不動のものである。ところが、一審検証調書添付写真三十四の立会人本田進の指示説明によると、「私が、縄と細引を盗られた被害者の中川さんから説明を受けたところでは、細引は玄関前にこのように置いた梯子に巻きつけてあった、ということでした」とあるのである。この立会人本田進は、六月三十日に神田正雄が施工した実況見分に補助者として立会った警察官である。中川、余湖の両証人が「木綿細引紐を知らない、そんなものは無かったと言っている」ことを承知していた警察官である。とすれば警察官本田進は一審検証にあって敢えて虚偽を裁判所に申立てたと言わねばならない。虚偽の申立はこの警察官だけではない。現職の検察官が裁判所で宣誓の上で行なった証言においてもなされている。当審第十七回公判における原検事の証言、「私自身は木綿紐は捜査しない。河本検事が捜査した。報告によると、中川が引越しのとき持って来たのであろう、というような記憶である」

河本検事が主任検事である原検事にウソを報告したかどうかを考える必要は毛頭ない。主任検事であった原が七月二日付河本調書や六月三十日付神田実況見分調書を見ていないはずはない。別のところに木綿紐があり、そこから持って来たのではないかと考えていたという原検事が、被告人の供述に合致するような中川ゑみ子の供述を得ていたのであれば、これを忘れることはあり得ない。原検事は明らかにウソを証言したのである。原検事は、西多摩郡福生町熊川に転居していた中川ゑみ子を証人に請求している。当審第十六回公判当時、同女は埼玉県入間郡武蔵町高倉にさらに転居していた。その転居の時期は記録上明らかでない。しかし、少なくとも当審検察官が中川証人を請求した際、その証人の住所は当審検察官によって直ちに判明したのである。それなのに原検事は、一審第六回公判で、「本日不出頭の中川ゑみ子は現在所在不明であるため、調査した上、次回公判期日までに間に合えば出頭させるようにする」と述べ、三日後の第七回公判でいともあっさりと証人請求を撤回したのである。原検事は、中川ゑみ子の証言によって、木綿細引紐も荒縄と同じ場所から持ってきたという自白の虚偽が明らかになることを、意識的に避けたと言われても仕方ないだろう。

このことから最後にもう一つの結論が導かれる。警察官も検事も、被告人に自白を維持させ、被告人の自白の虚偽が明らかになることを防ぐためには、虚偽を証言し、あるいは不正な手段もあえて辞さないということである』(続く)

写真は狭山事件に関する手持ちの資料より。