アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 1003

(紛らわしいが、今回の引用文は"狭山の黒い闇に触れる 999"からの続きとなる)

【公判調書3136丁〜】

                    「第五十八回公判調書(供述)」

証人=高村 巌(六十一歳・文書鑑定業)

                                            *

橋本弁護人=「あなたの鑑定方法と題されたところに、運筆上の個癖(注:1)について検査し拡大写真によって、起筆終筆、線条のふるえなどの潜在的個性を捕捉しと、ありますね。起筆終筆、線条のふるえというのは、これは先ほどの言葉で言うとどれに当るんでしょうか。筆順でもないですね、筆圧でもない」

証人=「はい。一本の線におけるふるえですね」

橋本弁護人=「そうすると筆順、筆圧、筆勢でもない、字画構成でもないですね」

証人=「そうですね」

橋本弁護人=「その個性が現われるということは、結局、他との比較によるわけですね、個性というものは」

証人=「そうですね」

橋本弁護人=「他の物とこういう風に違っているからこの物はこういう個性を持っておると、つまり相互関係の中で初めて個性があるとかないとか、特徴があるとかないとかということが言えるんですね」

証人=「そういうこともございますね」

橋本弁護人=「だから一つの文字を見まして、その文字の特徴について指摘することは出来ても、他の文字との比較がなければその文字の持っている個性は見い出し難いわけですね」

証人=「そういう場合もあると思います」

橋本弁護人=「そういう場合じゃなくて、そうでなければならないんじゃないですか。つまり個性があるとかないとかというのは、他の文字とのあくまでも相互比較の問題でしょう」

証人=「まあそういうことになりますね」

橋本弁護人=「ですからあなたの鑑定書で言いますと、照合文字の中の字と、被検文字の中にある文字とがそれぞれ類似しておる、例えばあなたの鑑定書で、『か』という字を検査しておりますね。『か』字の検査という所に詳細な説明がありますね」

証人=「ええ」

橋本弁護人=「これは照合文書の中にある『か』という字と、被検文書の中の『か』という字とが、あなたの結論によると同一の筆跡で書かれたものだということになるんですね」

証人=「まあ、そういうことになりますね」

橋本弁護人=「照合文書の中にある『か』は、これは被告人の石川一雄の書いた『か』です。これは書いた者がはっきりしておるわけです。これは問題ないんですが、被検文書、つまり脅迫状の中にある『か』は何びとが書いたものか、目下のところ不明な『か』なわけです」

証人=「はあ」

橋本弁護人=「問題はその照合文書中に現われている『か』という字に他の人が書いたものではないという個性ですね、言い換えれば、これは石川一雄が書いたものであるという個性がどういう風に現われているか、それをどう認識したかお聞きしたいんです」

証人=「それは、あなたの仰ることはよくわかります。『か』という字のこれを一つずつに切り離しますと、非常に『か』という字だけが合っていたからといって決してそれで鑑定の結論を出しているわけじゃないんです」

橋本弁護人=「それは分かりますよ」

証人=「たくさん総合されたものが、あるかどうかということで・・・」

橋本弁護人=「私の知りたいのは、あなたの鑑定の方法論を知りたいので、それで、あなたが結論を出したなどと言うつもりは毛頭ありませんが、その中に、問題の『か』の中に、余人をもっては書き得ない特徴というのがどこにあるのか、というのを聞きたいんです」

証人=「厳密な意味においては、この問題の被検文書の『か』という字を研究して、そして、技術的にこれくらいの字は書きうると思います」

橋本弁護人=「それはそうかも知れませんが、それは私共は聞いてないんですから、それは別のことにして、問題は、『か』という字が、照合文字の『か』は石川一雄が書いたものだし、その中に余人をもっては書き得ない特徴がどこに現われているか、それをどういう風にあなたが認識なさったかを知りたいんです」

証人=「そうですね、これは『か』という字だけに限って言いますと、余人をもっては書き得ないということは、私は、言っておらないわけですが」

橋本弁護人=「確かにそう言っておりませんが、そういう認識は出来なかったんですか、そうすると」

証人=「一字だけでは出来ませんでした」

橋本弁護人=「つまり正確に言えば、日本人一億の人のすべての文字の特徴が分かってなければ、これが石川一雄の特徴であるということは出て来ないわけですね、極端に言えば」

証人=「極端に一字だけについて言えばそうでしょうね」

橋本弁護人=「つまり指紋と同じように、ある文字に絶対の個性を認めるとすれば、他の人の書く文字についての個性がすべて分かってなければ、この文字が、この者が書いたものだという断定は下せないんですね」

証人=「一字だけによっては断定することは出来ないでしょうね」

橋本弁護人=「いや、字の数はいくつに増えても同じ理屈じゃないんですか」

証人=「そういうことはございません」

橋本弁護人=「いくつあっても他の人が書いた文字との比較がなければこの文字の特徴は出て来ないんじゃないですか」

証人=「仰る意味がよくわからないんですが」

橋本弁護人=「別の言葉で言えば照合文字で一番最初検査した『か』、ありますね」

証人=「はい」

橋本弁護人=「それと同様の『か』という字を書ける人が日本中には居るという可能性があるんじゃないんですか」

証人=「同様のよく似た字を書く人はありうるわけです」

橋本弁護人=「あり得ないということは言えないんですね」

証人=「仰るとおりです」

(続く)

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(注:1)【個癖=こへき】その個人・個物に特有のくせ。

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○参考までに次の事実を記しておこう。

これは、石川一雄被告が逮捕される前の五月二十一日に書かされた上申書である。

逮捕されたあと、石川一雄被告は毎日脅迫状を手本に字の練習をさせられた。写真はそののち書かされた脅迫状の写し。当然その字体は手本の字に似てゆくのは想像に難くないが。

こちらは手本となった脅迫状そのものである。