アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 1004

【公判調書3138丁〜】

                    「第五十八回公判調書(供述)」

証人=高村 巌(六十一歳・文書鑑定業)

                                            *

橋本弁護人=「あなたは北海道大学理論物理学者である戸谷さん、ご存じですか」

証人=「知ってはおりませんが、戸谷君の書いたものを今まで見たことはございます」

橋本弁護人=「彼の書いたもの、あるいは鑑定書の中に、稀少性という、彼はそういう言葉で言っておりますが、そういうことについて読んだことがありますか」

証人=「この前に北海道の時の何かの鑑定人のやった鑑定を鑑定したという非常にややこしい話なんですが、その鑑定書を読んだことがございますが、あの方の言っておられることは素人で、私からは・・・・・・」

橋本弁護人=「いや、ちょっと、私は戸谷さんの全面的なことを聞いているわけではないんで、文字の稀少性、この理論に絞ってあなたの考え方をお聞きしているんです。ほかの点についてはいろいろご意見もおありでしょうけれども」

証人=「私はそれについて異議を唱えたいんです」

                                            *

裁判長=「稀少性ということをご存じかどうか、見たことがあるか、聞いたことがあるかということを聞いておられるんです、まずそれから答えて下さい」

                                            *

証人=「先ほど申しました通り、聞いたことございます」

橋本弁護人=「あなたの仰っている先ほど読み上げた平常習得した潜在的個性というものと、戸谷さんの言う稀少性というものとは同じことじゃないんですか、結局言葉は違いますけれども」

証人=「何か、ちょっと、そこにニュアンスが違うような気がしますが」

橋本弁護人=「戸谷さんの言われる稀少性というのはその文字の持っている絶対的個性ですね、余人をもっては書き得ない特徴、それを稀少性と言われておるようですがね」

証人=「はい」

橋本弁護人=「あなたの言われてるのも先ほど鑑定書を読みましたけれども、容易に他人の模倣を許さない筆癖、特徴、こういう風に言ってますし、平常習得した潜在的個性とも言ってますし、これは戸谷さんの言うところの文字の上に現われるところの個性と」

証人=「大体言っておることは似てはおると思います」

橋本弁護人=「似ておるということは認めるんですか」

証人=「似ておるということは認めます」

橋本弁護人=「そうしますと、これは全面的なことになるので答えにくいかも知れませんが、後日、又お聞きしますが、あなたの鑑定書の中で、あなたの言葉で言えば潜在的個性ですね、そういうものをどういう風に発見したか書かれていないように思うんですが、どうでしょうか」

証人=「まあ潜在的個性そのものについての発見については書いてないと思います」

橋本弁護人=「あなたの鑑定書を見ますと、照合文書中の『か』という文字と被検文書中の『か』という文字が類似しておる、あるいは『た』という字が類似しておる、あるいはこれこれの字が類似しておるという類似点の指摘はずっとあるわけですね」

証人=「ええ」

橋本弁護人=「そして鑑定主文において同一筆跡と認めるという結論を出されておるわけですね」

証人=「はい」

橋本弁護人=「こう見ますと類似点の指摘はありますけれども、照合文書中に認められる石川一雄だけしか書き得ない個性ですね、それが、こういうところに現われておるんだ、という指摘がないように思いますが」

証人=「そういうことはいや・・・・・・、表わせないと思います。現われないでしょう恐らく。ただ、私たちは経験の世界でやっておるわけですから、そういう具体的に、この点、この点というようなことに潜在的個性となりますと非常に主観が入ってまいりますので、こちらの方には表わしてはおりません。それに分かりにくいと思います。これをわかって頂くには私の講義を二週間くらい聞いて頂かないと分からないと思います」

橋本弁護人=「しかし、今の鑑定書の中に鑑定方法という項目で記している部分がありますね。先ほど読み上げたところの続きですが、『拡大写真によって肉眼では看過しやすい起筆、終筆、線条のふるえ等の潜在的個性を捕捉し、字画の傾斜角度、間隔を測定比較し、次に文字を分解して扁(へん)と旁(つくり)にわけ、更にこれを一本の線、一個の点に分解してその運筆上の個性を検査した』と、こうあるんですね」

証人=「はい」

橋本弁護人=「ですからあなたは潜在的個性を捕捉するための努力をなさったんでしょう」

証人=「それはしております、とにかくこれは三ヶ月近くかかっておりますから」

橋本弁護人=「努力をしたけれども、そういう潜在的個性はここにあるんだという指摘は出来ないんですか」

証人=「いや、これは、私の、主観的には分かっておりますが、これを、その客観的に示すということが非常に困難だというんです」

橋本弁護人=「客観的には困難だというのはどうしてでしょうか。例えばここで字画の傾斜角度、間隔などを測定比較し、とありますね。これは客観的に表現することは可能なんじゃないんですか、鑑定方法の中にありますね。ですから、傾斜角度とか、間隔というのは数字で表わすことは出来ますね、だから客観的に表現することは可能でしょう」

証人=「これは、そんなことは出来ますが、ここに表わすことを省略しておるわけです。それを全部書くと鑑定書が厚くなってしまうんですよ、三ヶ月間かかったものを全部書けば見る人が大変ですよ、あなたがお目をお通しになるだけでも、一ヶ月や二ヶ月かかってしまうんじゃないかと思います。ですから、出来るだけそういうものは省略してあるわけです」

橋本弁護人=「そうすると、あなたとしては傾斜角度を測定したり、間隔を測定したりした事実はあるんですか」

証人=「あります」

橋本弁護人=「その資料はあるんですか」

証人=「とっておると思いますが、どこかに、だいぶ年数が経っておりますので、どこにあるかわかりませんが、どこかにあると思います。三年間くらいはとっておりますから」

橋本弁護人=「それは何かあなたの、文書か何かにしてあるんですか」

証人=「いや、そういうことじゃなくて、写真にしてその写真の上に符号を付けて、これ以上もっと大きな写真になって、とってあるわけです」

橋本弁護人=「そうすると、その潜在的個性については、結論的に仰るとどういうことになるんですか。それを捕捉するための努力はしたと」

証人=「はい」

橋本弁護人=「しかし、それは鑑定書には文章の形では表現してないと、それはそういう表現をすると鑑定書が大変厚くなるからだと」

証人=「表現すること自体が、非常に角度やなんかの場合にはいいですけれども、線条のふるえなんかを表現するということは非常に分かりにくいんじゃないかという風に思います。非常に微妙なわけですから」

橋本弁護人=「その線条のふるえについて聞きますが、それに個性が出るわけですか。その人でなければ出来ないようなふるえがあるんですか」

証人=「個性と言いますか、特殊なふるえを持っている場合には個性ということが言えるかどうか、分かりませんが、非常に範囲を縮小していく上で個性に近いものが出るわけでございます」

橋本弁護人=「そうすると線条のふるえによって、個性を識別するまではいかないけれども、それに近いものがあると」

証人=「あることはあると」

(続く)