アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 999

【公判調書3132丁〜】

                    「第五十八回公判調書(供述)」

証人=高村 巌(六十一歳・文書鑑定業)

                                            *

橋本弁護人=「その難しいと仰るのは、筆跡の何を識別するのに難しいと言われるんですか」

証人=「特徴を分類するのが難しいんです」

橋本弁護人=「その人固有の筆跡の癖、個性といいますか、それを分類するのが難しいと」

証人=「そうですね、一つの型にはめてしまえばいいんですが、非常に筆跡というのは書く都度変わって表現される、厳密な意味においては先ほど申しました通り、同じように書けないということで、それを一つの型にしてしまえばこれはいろいろ電子計算機でも分類出来ましょうし、非常に便利なんですが、一つの型にすることが出来ないということが経験を必要とするわけです」

橋本弁護人=「あなたの鑑定書の副本をお持ちでしたらご覧下さい、こういう記載があるんですが。この高村巌鑑定書の中の補遺(注:1)というのがありますね、この鑑定書中に」

証人=「はい」

橋本弁護人=「この中の真ん中辺りでしょうか。『しかし各人の筆跡は何れも多年習得の結晶に成るものであって、容易に他人の模倣を許さない筆癖特徴を有し』伝々とありますね。そこに『各人の筆跡は何れも多年習得の結晶に成るものであって、容易に他人の模倣を許さない筆癖特徴を有し、如何に字体を変形記載しても知らざる間に平常習得した潜在的個性が、あるいは全面的にあるいは微細的に表現されるものであるから、これを審査攻究(注:2)すればこれを正確に識別することは不可能ではない』と、ありますね」

証人=「はい」

橋本弁護人=「あなたがこう書かれた時点と現在のあなたの考え方には差異があるわけですね」

証人=「いや、ありません」

橋本弁護人=「この鑑定書を見ますと、ある人の筆癖特徴を正確に識別することは可能であると読み取れますね」

証人=「不可能ではないと、全部不可能だということは言えないと、不可能ではないが、可能だとも言ってませんが、不可能なものもたまにはございます」

橋本弁護人=「そうすると、不可能ではないということは、可能であるということの反語にはなりませんか」

証人=「可能であるということと、不可能ではないということでは大分違います。その反面解釈から言いましても、不可能ではないということと、可能であるということは違うと思いますが」

橋本弁護人=「というと、それはどういうように違うんですか。この文章の真意はどういうことなのですか」

証人=「あるものは可能であって、中には不可能なものもあるということです」

橋本弁護人=「そうすると、一義的には言えないと。固有の筆癖を発見出来る場合もあるし、出来ない場合もあるという意味ですか」

証人=「そういうことですね」

橋本弁護人=「ここであなたが言っておられるのはこういう意味なんでしょう。仮にまあ、やや極端な言い方をすれば、日本人一億人おるとして、一億人の人が文字を書けばみんなそれぞれ違った個性を持った文字を書くと」

証人=「そういうことですね」

橋本弁護人=「その個性というのは筆跡に現われるから、これを調べれば一人一人の筆跡を見つけることが出来ると」

証人=「そういう筈だということですね。人間、顔が違うように文字が違うということは、これはどこの国でも言われておることです。専門家が言っておることなんですね」

橋本弁護人=「そうすると、指紋が全部違うとそれには独特の個性がありますね」

証人=「終生不変万有不動」

橋本弁護人=「それと同様な意味において筆跡にも個性があると考えておられるんですか」

証人=「指紋ほどには明瞭じゃございませんから、それ程はっきり言えるかどうか、ということには疑問がございます」

橋本弁護人=「あなたとしては文字というものは一人一人それぞれの個性があると、これは同一の顔がないと同様に同一の文字というものはないんだという考えを持っておられるんですか」

証人=「そうでございますねぇ。ただ、中に、付け加えますと中に良く似た、他人の空似があるように、中には良く似た字を書く人がございますので、そういう場合には紛らわしいことがあってたまには間違いが起こることもあり得るんじゃないかということも考えられます」

橋本弁護人=「類似の字があるということとは、今の問題とは若干違いますから別論としまして、そうしますと、あなたの言う筆癖といいますか、個性といいますか、そういうものは文字のどこに現われるんですか。平仮名、片仮名、漢字によって違うんでしょうか」

証人=「どこに現われるかということは決まっておりません」

橋本弁護人=「あなたの体験からいうと、どこに現われる場合が多いんですか」

証人=「それはどこに現われるということはちょっと決まっておらないので、ここに現われる、そこに現われるということは言えないと思います。ある字では起筆に現われることもあるし、ある字には終筆に現われることもあるし、文字の一つの形の上に現われることもございます」

橋本弁護人=「そうするといわゆる文字を見ますと、文字の字画構成ということは一つ考えられますね」

証人=「はい」

橋本弁護人=「これは縦棒、横棒の角度、そういうもので、間隔とかそれから」

証人=「はい」

橋本弁護人=「運筆の順序、筆順」

証人=「ございます」

橋本弁護人=「運筆の速度」

証人=「はい」

橋本弁護人=「そういう風に分けますと、あなたの言う筆癖あるいは個性というのはどこに一番よく現われるんですか」

証人=「やはり結構上の、構えの、一つの文字の形の上の問題だと思います」

橋本弁護人=「いわゆる字画ですか」

証人=「ええ。もう一つの、今、仰ったところの運筆速度だとか、筆圧だとかいう問題がございますし、記載順序、これの上に現われることもございますが、筆順の場合には非常に簡単にこれを識別することが出来ますけれども、特に筆順の場合には重なった場合、プラスになった先に書いた字と、後に書いた字とでインクの場合にはインクの散り方が違うんです。もと書いた字の方へ、後で書いた字のインキが散りますから顕微鏡で見ると分かるんです。筆圧ということになると、ペン字の場合にはペンの圧力によって太さが大分違ってきますが、これは筆圧というものは一つの痕跡からは検出しにくいし、どれ位の筆圧がかかったかということは、出来上がってしまった文字からは筆圧が何ポンド加わったかということは検出することは難しいわけです」

橋本弁護人=「そうすると、多少整理すれば、字画構成、縦横の棒の傾斜、間隔に個性が現われることがあると、それから筆順にも現われることがあると」

証人=「これは個性と言えるかどうか分かりませんが、全部総合して一つの個性と見るわけですが」

橋本弁護人=「総合しましてですか、そうすると筆順についてはあまり個性が現われないんですか」

証人=「筆順についてはあんまりその、個性と言えないんじゃないかと思います。それはその筆順で書く人は何人かあるわけですから、百人中に三十人いるとか五十人いるとか、三人しかいないとか、しかしそれは決定的な個性ということにならないんじゃないかと、非常に狭くはなりますが」

橋本弁護人=「筆勢というのがありますね、それは何を指すんですか。先ほどの筆圧とは違うんでしょう」

証人=「筆圧というのは上から加えられる圧力ですが筆勢というのは文字が、運筆の速度だけじゃないんですが、スムーズに円滑に筆を運んだ痕跡なんですね。それは主として主観的な見方になります」

橋本弁護人=「あんまり数量的に表現することが出来ない」

証人=「そうですね」

(続く)

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(注:1)【補遺=ほい】書き漏らした事柄(=遺)などを、あとから補うこと。その補いの部分。

(注:2)【攻究=こうきゅう】学問・技術などを、修め究めること。

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「あのオヤジ、狭山事件がどうのこうのと言ってるよ」「いやいや、アブナイ奴だなぁ」・・・。そんな幻聴が聞こえたりする私は、拾ったボロ布を頬かぶりし健全なる埼玉県民を装い、『狭山の黒い闇に触れる 』なる当ブログを発信し本件の実体解明に務めているが、その995で触れた馬は、よく調べてみるとその付近には乗馬場のような施設があり、私が目撃した馬は、どうやらそこの所属ホースであったようだ。晴天の下、自由に草を頬張る彼の姿は、何だか人生の答えを教えてくれているような気がした。

とりあえず君も私も食肉にならず、今のところ幸せであるなぁ。