アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 822

○証人=岸田政司に対する尋問には弁護人が用意した警察・鑑識課による足跡の鑑定書、鑑定図、石膏型等が示されているが、一般人にとって入手不可能なこれらの資料をブログ上に引用出来ないことは非常に歯痒いところである。あるいは神田・神保町の老舗古書店あたりにこの手の資料が流出してはいまいかと検索・探索したりするが、やはりそれは徒労に終わっている。ここでやや話が脱線するが、このような特殊すぎるカテゴリーを追跡していると、自ずと老生の古本センサーには類似した資料(犯罪関連の古書)が目にとまり、それが適正価格ならば購入するよう心がけるようになってしまった。たとえばこんな古本である。

老生の出身は岩手県だけに、より興味が湧いた。

値段は千六百五十円と確認できるが、これを購入した店は蕨市の"なごみ堂"であった記憶があり、するといくらか表示の値段から割引された筈である。

昭和三十四年発行、写真資料も目をそらしたくなる怖さであり、あろうことか別頁には事件被害者の死体もモロに載っている。

古書価という観点から見た場合、たとえばこの本の背帯はこの通りであり、またセロハンテープの補修痕も加わりその鑑定価格は低いと思われるが、美品であればネット古書店では一万五千円の値が付けられている。なので慎重にこの古本を修復して八千円ほどで売ろうか思案中である。

【公判調書2539丁〜】

                    「第四十九回公判調書(供述)」

証人=岸田政司

                                            *

橋本弁護人=「六月一日に鑑定者二名は狭山警察署に出頭して被疑者石川一雄について足型の測定と地下足袋を履かせて同署留置場前のコンクリート上に砂土を積み足跡の印象実験をした、ということですね」

証人=「はい」

橋本弁護人=「それと同じ日の六月一日に現場の土を鑑識課に運搬して、加藤技師に地下足袋を履かせその土で足跡採取実験をしていますね」

証人=「六月一日には私が土を運搬したわけではないので食い違いが生じたかも知れません。私は狭山警察署に行っていて鑑識課と離れていましたから食い違いがあったのではないかと思います」

橋本弁護人=「石川被告に地下足袋を履かせて砂土の上を歩かせているのだから、それならついでに現場の土で採取実験をしてもよかりそうなものだと考えるから尋ねたのですが、別にその考えはなかったというのですね」

証人=「そうです」

橋本弁護人=「鑑定写真を通覧すると、どういう土で足跡を採取するかによって足跡の現れ方が非常に異なるのですね」

証人=「泥が緻密なものですとよく出ますし、荒いものだとあまりよく出ません。また、泥の湿度によって、泥が地下足袋に付着してしまって模様が出ないということがあるわけです」

橋本弁護人=「(前同鑑定書の鑑定図第十四、十五、十六、十七、十九図を示す)その五つの図は現場の土で採取した石膏を写したものですね」

証人=「そうです」

橋本弁護人=「(さらに前同押号の五の3の石膏を示す)あなたの鑑定書の『三、鑑定経過』の『8対照足跡の採取実験』中『(一)鑑定資料(二)(1)による実験』の『A損傷特徴』に『A8は、資料(一)(3)の現場足跡とほぼ同一条件の土の附着状態で印象されたため、破損痕が顕出されている』(第一〇四四丁裏九、十行目)とありますが、A8というのは採取実験により採取したもの、資料(一)(3)というのはその五の3の石膏ですけれども、この点に関して尋ねます。鑑定図第十六図は現場の土で採取した石膏だと鑑定書に書いてありますが、そういう記憶ですか」

証人=「鑑定書にそう書いてあればその通りです」

橋本弁護人=「写真で見る限り横線模様の辺りが鮮明に出ていますが、これは特殊な工夫をして顕出したのですか」

証人=「別に特殊な工夫はしません」

橋本弁護人=「自然に取ってそう出たのですか」

証人=「そうです」

橋本弁護人=「五の3の石膏と印象状態が異なっていると思いますが、第十六図の写真の方がよく出ていますね」

証人=「はい」

橋本弁護人=「特に足弓部の横線模様が非常にきれいに出ていますね」

証人=「はい。第十六図の方は横線模様の間に土が詰まっていなくて、五の3の石膏の方は土が詰まっていた状態で印象されたのではないかと思います」

橋本弁護人=「ところがあなたの鑑定書の結論によると、これは資料(一)(3)の現場足跡とほぼ同一条件の土の付着状態で印象されたと断定していますが、現場足跡とほぼ同一条件の土の付着状態であるということがどうして引き出せたのですか」

証人=「これと同じ条件に何回も何回も繰り返して対照足跡を作ったのですが、その内で現場足跡と一番近い状態に取れたので、そういう風にうたいました」

橋本弁護人=「第十四、十五図の足跡も現場の土で採取した足跡だと鑑定書に書いてありますが、間違いありませんか」

証人=「鑑定書にうたってあれば間違いありません」

橋本弁護人=「第十四図と十六図を比べて、同一の土で採取したけれどもどちらが印象条件が良好と言えるのですか」

証人=「良好というのが現場足跡に近いということであれば第十六図の方が現場足跡に近いと私の方では解釈しました」

橋本弁護人=「第十五図と第十六図はどうですか」

証人=「今と同じで、第十六図の方が現場足跡に近いです」

橋本弁護人=「近いというのはどういう意味ですか」

証人=「(一)(3)の状態に近いから近いと言ったのです」

橋本弁護人=「第十四、十五、十六図のA6.A7.A8という石膏は、いずれも現場の土で採取したのですね」

証人=「はい」

橋本弁護人=「そしてこれはいずれも作為をしないで自然に印象して採取したのですか」

証人=「泥を付着させてやりました」

橋本弁護人=「というのは」

証人=「泥の上を歩いてみて、それから印象しました」

橋本弁護人=「たとえば、この足跡は横線模様をきれいに出してみようとか足弓部をきれいに出すために土を落として印象するとかいうことはしていないのですか」

証人=「そういうことはしていません。ただ泥の付着はさせるようにしてやりました」

橋本弁護人=「A6からA9までの石膏は現場の土で採取したということですが、現場の土をどこかに並べて採取したのですか」

証人=「埼玉県警察本部鑑識課の構内の泥の上にその泥を撒いてやりました」

橋本弁護人=「その上をどうしたのですか」

証人=「その上を踏み付けて歩き、同じような状態だなと思うところで石膏で採取したわけです」

橋本弁護人=「地下足袋を履いてですね」

証人=「そうです」

橋本弁護人=「履いたのが加藤技師ですね」

証人=「そうです」

橋本弁護人=「特に作為を加えないで歩いたのですか」

証人=「そうです」

(続く)