アル中の脳内日記

アル中親父による一人雑談ブログ

狭山の黒い闇に触れる 819

○足跡に関する弁護団側の主張はこうである。

「犯人のものとされる足跡について、五月四日付けの当初の鑑識課の報告書では、十文ないし十文半の大きさの職人足袋による足跡とされていた。五月二十三日に石川一雄氏が逮捕され、自宅から五足の地下足袋が押収されたが、その大きさはいずれも九文七分である。警察は、現場足跡が石川宅から押収した九文七分の地下足袋によって出来たもので、破損痕も一致するという鑑定書を作り、足跡は一致するとした。

この警察の鑑定は当初の発表とは食い違い、押収地下足袋と現場足跡とは一致しない」

(現場足跡の石膏型。近接撮影された足跡の写真は未だに証拠開示されていないという。二点の写真は"無実の獄25年・狭山事件写真集=部落解放同盟中央本部中央狭山闘争本部・編、解放出版社"より引用)

【公判調書2531丁〜】

                    「第四十九回公判調書(供述)」

証人=岸田政司

                                            *

橋本弁護人=「(前同押号の五の2の石膏を示す)その石膏に側縁の一部が出ていますか」

証人=「出ています」

橋本弁護人=「(前記鑑定図第二図を複写した写真を示す)その側縁の部分をその(一)(2)の写真に記入して示してください」

証人=「はい」(証人は同写真に赤線を記入し、且つ写真の下に"朱示線部が側縁の一部を示す・・・一-2"と記入した。)

橋本弁護人=「(前同押号の二八の一の地下足袋を示す)側縁というのは何を指すのですか」

証人=「縫付地下足袋のゴム底の回りの最も外側の縁です」

橋本弁護人=「側縁は縫付地下足袋に固有のものですか」

証人=「そうですね。縫付地下足袋というのは側縁とその内側の中間を縫うのが普通ですから、糸の通った外側のところが線状というか棒状になっているのが普通です」

                                            *

裁判長=「糸の外側の棒状になっているところを側縁というのですか」

証人=「そうです」

                                            *

橋本弁護人=「(前同押号の五の2の石膏を示す)その石膏に破損痕を認めることができますか」

証人=「この前、これにはちょっと認められないと答えたと思います。鑑定書は関根政一と私の二人で作りましたが、私はこのほうにはちょっと自信がなかったのです。それでこの前そう答えたと思うのですが」

橋本弁護人=「関根さんと分担して鑑定をしたから、これについてはよく分からないと言うのですか」

証人=「協力してやりましたが、私はこれについては分からないとこの前答えたわけです」

橋本弁護人=「そうすると、現在その石膏を見ても破損痕を指摘することは出来ないわけですか」

証人=「はい」

橋本弁護人=「出来ないというのは、それを見て破損痕があるかどうか分からないということですか」

証人=「そうです」

                                            *

裁判長=「関根さんは五の2の石膏について破損痕があると指摘出来たのですか」

証人=「そうです」

裁判長=「だから鑑定書において鑑定資料(一)(2)の現場足跡に破損痕としてJ点を指摘してあるのですね」

証人=「はい」

裁判長=「しかし、あなたとしてはそれに自信を持てなかったというわけですね」

証人=「そうです」

                                            *

橋本弁護人=「(更に前同押号の五の3の石膏を示す)その五の2及び五の3の二つの石膏は縫付地下足袋の足跡という点では同じものであるという風に言えるのですね」

証人=「はい」

橋本弁護人=「それ以外にその二つの石膏に共通性を指摘できますか」

証人=「踵が平らです」

橋本弁護人=「平らですか」

証人=「まあ、平らですね。なめらかです」

橋本弁護人=「なめらかということは踵の状況が似ているということですか」

証人=「そうです。それから、双方に竹の葉模様が写っています。それから拇趾が持ち上がっています」

橋本弁護人=「石膏で持ち上がっているということは現物では地面に深く入っているということですね」

証人=「はい」

橋本弁護人=「(前同押号の五の1の石膏を示す) それに側縁が現われていますか」

証人=「これが側縁であるというくっきりしたものは難しいですね」

橋本弁護人=「そうすると、それはどういう種類の足跡と言えますか」

証人=「踵に半月状の一部が出ています。なめらかになっています。普通の座敷で履く足袋にはこういうのは出ません」

橋本弁護人=「すると、地下足袋であることは間違いないですね」

証人=「はい」

橋本弁護人=「その地下足袋がどういう種類であるかは」

証人=「縫付地下足袋と見ていいでしょうね」

橋本弁護人=「それはどこで言えますか」

証人=「踵に半月状が出ているということが一つ、それから切抜地下足袋では底のゴムが厚いですから底がこんなに丸くなれません。踏付部辺りがこれほど丸く出ないわけです」

橋本弁護人=「縫付地下足袋の方が他の地下足袋よりも底が薄いのですか」

証人=「薄いですね」

橋本弁護人=「それで足の形によって地下足袋がそういう風に曲がるのですか」

証人=「はい」

橋本弁護人=「その足跡は底のゴムが薄いことを示しているのですか」

証人=「経験から言って私はそういう風に想像しました」

橋本弁護人=「そうすると、それがはっきり縫付地下足袋の跡であるという根拠は半月模様があるということですか」

証人=「そうですね」

橋本弁護人=「それだけですか」

証人=「いや、経験によって、大体この形になって現われるものは縫付地下足袋あるいは切抜地下足袋、あとは座敷で履く足袋、そのくらいのものだと言えると思います。その内の切抜地下足袋は厚いから丸みを帯びて出ない、それから半月がないので違う、座敷で履く足袋はどうかと言うと踵に半月状の模様がある程度出ているので、これは縫付地下足袋である、という風に私は推測しているわけです」

橋本弁護人=「その石膏を見て何らかの欠損痕を認めることができますか」

証人=「現在では見つかりません」

(続く)